名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

スライダーを動かすと、その世代に生まれた馬を獲得賞金の多い順で表示します。

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ダノンスマッシュのイメージビジュアル
ダノンスマッシュDanon Smash
Danon Smash

ダノンスマッシュ

通算成績26戦11勝

獲得賞金76,393万円

生年月日 2015.03.06(平成27年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ダノンスマッシュの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
8 GI香港スプリント シャティン 芝1200 4人気 川田将雅 映像
6 GIスプリンターズS 中山 芝1200 1人気 川田将雅 1:07.8 上り33.8映像
6 GIチェアマンズスプリント シャティン 芝1200 1人気 J.モレイラ 1:09.2 映像
1 GI高松宮記念 中京 芝1200 2人気 川田将雅 1:09.2 上り34.3映像
1 GI香港スプリント シャティン 芝1200 3人気 R.ムーア 1:08.4 映像
2 GIスプリンターズS 中山 芝1200 3人気 川田将雅 1:08.6 上り35.0映像
1 GII産経賞セントウルS 中京 芝1200 1人気 三浦皇成 1:07.9 上り34.1映像
8 GI安田記念 東京 芝1600 8人気 三浦皇成 1:32.4 上り35.1映像
1 GII京王杯スプリングカップ 東京 芝1400 2人気 D.レーン 1:19.8 上り33.1映像
10 GI高松宮記念 中京 芝1200 3人気 川田将雅 1:09.7 上り34.7映像
1 GIII夕刊フジオーシャンS 中山 芝1200 1人気 川田将雅 1:07.4 上り34.0映像
8 GI香港スプリント シャティン 芝1200 3人気 L.デットーリ 映像
3 GIスプリンターズS 中山 芝1200 1人気 川田将雅 1:07.2 上り33.7映像
1 GIIIキーンランドカップ 札幌 芝1200 1人気 川田将雅 1:09.2 上り35.3映像
GIII函館スプリントS 函館 芝1200 川田将雅 映像
4 GI高松宮記念 中京 芝1200 1人気 北村友一 1:07.5 上り34.0映像
1 GIIIシルクロードS 京都 芝1200 1人気 北村友一 1:08.3 上り34.2映像
1 GIII京阪杯 京都 芝1200 1人気 北村友一 1:08.0 上り33.6映像
2 GIIIキーンランドカップ 札幌 芝1200 4人気 北村友一 1:09.8 上り35.9映像
1 函館日刊スポーツ杯 函館 芝1200 3人気 北村友一 1:08.4 上り33.9
7 GINHKマイルカップ 東京 芝1600 13人気 北村友一 1:33.2 上り35.2映像
5 GIIIアーリントンC 阪神 芝1600 6人気 北村友一 1:33.8 上り34.9
7 GIII中スポ賞ファルコンS 中京 芝1400 1人気 戸崎圭太 1:22.6 上り34.4映像
5 GI朝日杯フューチュリティステークス 阪神 芝1600 4人気 福永祐一 1:34.0 上り33.8映像
1 OPもみじS 京都 芝1400 1人気 福永祐一 1:23.4 上り34.2
1 2歳未勝利 阪神 芝1400 1人気 福永祐一 1:21.9 上り34.4
2 2歳新馬 新潟 芝1400 1人気 戸崎圭太 1:23.0 上り36.4

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ダノンスマッシュの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ロードカナロアLord KanaloaキングカメハメハKing KamehamehaKingmambo
マンファスManfath
レディブラッサムStorm Cat
サラトガデューSaratoga Dew
スピニングワイルドキャットSpinning WildcatHard SpunDanzig
Turkish Tryst
Hollywood WildcatKris S.
Miss Wildcatter

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2015年生まれの鹿毛の牡馬。父ロードカナロア、母スピニングワイルドキャット。主な勝ち鞍は香港スプリント・高松宮記念・京阪杯。

父と同じ馬房で ― 二〇一五〜二〇一七年

2015年3月6日、北海道新ひだか町のケイアイファームに鹿毛の牡馬が生まれた。父ロードカナロア、母スピニングワイルドキャット。母の父はハードスパン、母の母は1993年のブリーダーズカップ・ディスタフを勝ち、その年のエクリプス賞最優秀3歳牝馬に選ばれたハリウッドワイルドキャットである。母の半兄には、2000年のブリーダーズカップ・マイルを制したウォーチャントがいた。馬主はダノックス。名は冠名に「打ち砕く」を継いだもので、のちに走ることになる香港では、野田重撃という漢字を与えられる。 ケイアイファームの中村智幸マネージャーは、馴致から育成へ進めるあいだ手のかかった記憶はほとんどない、と述懐している。背中の柔らかさと綺麗なフットワークには当時から光るものがあり、ただ乗り出した頃はまだ力強さに欠けるところもあったという。 預けられたのは栗東の安田隆行厩舎だった。父ロードカナロアを管理した厩舎である。父に携わった調教助手の岩本龍治が担当につき、馬房も父が使っていたものがあてがわれた。 安田隆行は1953年、京都市の生まれ。1972年に騎手としてデビューし、二年目に阪神の障害競走で落馬して脳挫傷を負い、半年を棒に振っている。復帰後は小倉を主戦場に勝ち星を重ね、「小倉の安田」と呼ばれた。GIに手が届いたのはデビュー20年目、1991年のトウカイテイオーで、皐月賞と東京優駿を続けて勝っている。1994年に騎手を引退して調教師に転じ、2010年のトランセンドで開業16年目のGI初制覇。翌年からは短距離重賞を次々に勝ち、厩舎は「短距離王国」と呼ばれるようになった。2012年、ロードカナロアで香港スプリントを勝ったときが、この人にとって初めての国外GIだった。 2017年9月2日、新潟の芝1400m。単勝1.7倍の1番人気に推されたデビュー戦は、戸崎圭太を背に2着だった。三週間後の阪神で福永祐一に乗り替わって未勝利を勝ち上がり、10月のもみじステークスは3馬身差で完勝する。年末の朝日杯フューチュリティステークスは4番人気。出遅れが響いて5着に終わった。勝ったのは、同じ冠名を持つダノンプレミアムである。 このとき、この馬がどこを走る馬なのかは、まだ決まっていなかった。

一六〇〇の外へ ― 二〇一八年

2018年の春、陣営が最大目標に据えたのはNHKマイルカップだった。 3月の中京、ファルコンステークス。戸崎圭太で単勝2.2倍の1番人気に支持されたが7着。勝ったのはミスターメロディである。4月のアーリントンカップは北村友一に乗り替わって5着、勝ち馬はタワーオブロンドン。そして5月6日の東京、NHKマイルカップは13番人気の7着に終わった。ケイアイノーテックが勝っている。 春は、何も掴めないまま過ぎた。 夏、陣営は函館へ向かい、距離を詰めた。7月21日の函館日刊スポーツ杯は芝1200m。この馬が1200mを走るのは初めてだった。3番人気で先団から抜け出し、アマルフィコーストに1馬身半差をつけて勝つ。翌月のキーンランドカップでは3歳の53キロで古馬の速さに挑み、2着まで押し上げた。勝ったのはナックビーナスである。 11月25日、京都。京阪杯。単勝1番人気に応え、直線の最内から鮮やかに差し切った。重賞初制覇だった。父ロードカナロアが初めて重賞を勝ったのも、2011年のこの京阪杯である。 同じ日、東京ではジャパンカップが行われていた。勝ったのはアーモンドアイ。2分20秒6の世界レコードだった。父を同じくする初年度産駒の一頭が2400mの記録を書き換えたその日に、もう一頭は1200mで最初のタイトルを手にしている。

一番人気の年 ― 二〇一九年

2019年1月27日、京都のシルクロードステークス。単勝2.0倍の1番人気に推され、好位の内で脚を溜め、直線で馬場の中央に持ち出されると鋭く伸びてエスティタートを差し切った。京阪杯からシルクロードステークスへ。父ロードカナロアが2011年から2012年にかけて辿ったのと、同じ順番だった。 3月24日、高松宮記念。1番人気に支持されたが、外めの13番からロスの大きい競馬になり4着。勝ったミスターメロディとの差は0秒2だった。 6月16日の函館スプリントステークスには、走ることさえできなかった。厩舎で使われていた競走馬用のカルシウム剤「グリーンカル」から、JRAが使用を禁じているテオブロミンが検出されたためである。原因は製造工場でカカオ豆副産物の粉塵が混入したことと断定され、この一件で156頭が競走除外となった。函館スプリントステークスは6頭を欠いて7頭立てになり、この馬はゲートの前に立つ機会を失っている。 8月25日、札幌。川田将雅との初コンビとなったキーンランドカップを1番人気で勝ち、連覇を果たした。2着はタワーオブロンドンである。 9月29日のスプリンターズステークスは、そのタワーオブロンドンとの二強と言われた。最終的に1番人気に推されたのはこの馬のほうだった。だが2番という内枠でタワーオブロンドンにマークされる形になり、直線では進路を失いかける。立て直して伸びたものの、逃げたモズスーパーフレアと、先に抜け出したタワーオブロンドンには届かない。3着、0秒1差だった。 12月8日、シャティン。初めての海外は、父が2012年と2013年に連覇した香港スプリントだった。デットーリを鞍上に迎えたが、8着に終わる。 この年、1番人気に推されたのは四度。勝ったのは、そのうちの二度だった。

申し訳ありません ― 二〇二〇年春から秋へ

2020年3月7日、中山のオーシャンステークス。8キロ増えて478キロの馬体で1番人気に応え、逃げるナックビーナスを捉えて勝った。 三週間後の高松宮記念は、新型コロナウイルスの感染拡大により、戦後初の無観客で行われた。中京の芝は重馬場だった。前日のオッズでは1番人気だったが、当日は3番人気。先行集団の直後で流れには乗ったものの、直線で伸びを欠いて10着に沈む。 「結果を出せずに申し訳ありません」[^1] 川田将雅が残した言葉は、それだけだった。 5月16日の京王杯スプリングカップは、レーンが手綱を取った。この日は逃げた。東京の芝1400mで先手を奪い、直線でも脚を残して、ステルヴィオを退けている。 6月7日の安田記念は三浦皇成で8番人気の8着。1600mは二年ぶりだった。勝ったのはグランアレグリアである。 9月13日、中京のセントウルステークス。三浦皇成が続けて騎乗し、1番人気に推された。セイウンコウセイが逃げ、ラブカンプーとビアンフェが続く展開を、少し離れた4番手で見ている。直線で坂を上がると残り200mで先頭に立ち、大外から追い込んだメイショウグロッケを1馬身抑えた。中京では7着、4着、10着と勝てずにいたが、四度目にして初めて勝った。 10月4日、中山のスプリンターズステークス。GIに挑むのは八度目だった。直線で外から追い出しにかかったところへ、大外からグランアレグリアが来る。0秒3差の2着。 八度目も、届かなかった。

出典:スポーツニッポン「【高松宮記念】ダノンスマッシュ伸び欠いて10着 川田「申し訳ありません」」2020年3月29日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2020/03/29/kiji/20200329s00004048229000c.html 、閲覧日:2026年7月25日。

ビデオを回す前に ― 二〇二〇年十二月十三日

11月、二年連続で香港スプリントへの招待を受諾する。27日、当日の鞍上がムーアに決まったことが発表された。 12月13日、シャティン競馬場。芝1200m、良馬場、14頭立て。枠は大外の14番、馬番は5番。単勝は3番人気だった。馬体重469キロ。 大外なら出たなりで勝負するしかない、とムーアは考えていたという。だがゲートを出るとスタートが良く、道中は流れのままに中団の外を運んで、前を射程に入れたまま直線を向いた。内で横一線になっていた先行勢を外から一気に抜き去り、地元のジョリーバナーを半馬身凌ぐ。1分8秒45。 GIに挑んで九度目の、最初の勝利だった。 父ロードカナロアは、このレースを2012年と2013年に連覇している。日本調教馬が長く勝てずにいた香港の1200mを最初にこじ開けたのがその父で、八年後、同じ厩舎の同じ血が同じゴール板を先頭で過ぎた。 調教師は日本にいた。 「実はリアルタイムでは見ていなくて、自分がビデオでレースを見る前に色々な方からおめでとう、とお祝いの電話をもらったので、絶対に勝つな、と思ってビデオを見ました」[^1] 安田隆行は、結果を知ってから映像を再生している。負けようのない一戦を、最初から最後まで見たことになる。 ムーアはこの日、香港ヴァーズも勝ち、史上4人目となる香港国際競走の完全制覇を達成した。同じ日、香港カップはノームコアが勝っている。 15日に帰国し、輸入検疫のため兵庫県の三木ホースランドパークへ入った。安田が次に見ていたのは、翌年3月28日の中京だった。

出典:日本中央競馬会「レース結果:2020年香港スプリント」、https://www.jra.go.jp/keiba/overseas/race/2020hkir/sprint/kaiko.html 、閲覧日:2026年7月25日。

雨の中京 ― 二〇二一年三月二十八日

午後から雨脚が強くなり、中京の芝は重馬場になった。18頭立ての8枠14番。1番人気はレシステンシアで、この馬は2番人気である。 ゲートが開くと、連覇を狙うモズスーパーフレアが勢いよく飛び出した。セイウンコウセイダノンファンタジーラウダシオンが好位へ殺到し、それを見る形でレシステンシアが続く。その後ろ、内にインディチャンプを置いて進んだのがダノンスマッシュだった。雨は大きなポイントだが、あえて何も考えず馬の走りたいように走らせた――川田将雅はそう振り返っている。目の前にレシステンシアがいたことで、道中のリズムは良かった。 直線。後続が大きく広がってモズスーパーフレアを追う。外にレシステンシア、その内にダノンスマッシュ、さらに内からインディチャンプ。三頭の脚色が並んだまま、追い比べは長く続いた。 「長く競り合う形になったけれど、最後まで意地を見せてくれた」[^1] 先にゴール板を過ぎたのはダノンスマッシュだった。1分9秒2、レシステンシアにクビ差。上がり34秒3。一昨年は4着、去年は10着だった同じ舞台で、三度目に勝った。 2着レシステンシアの鞍上は浜中俊、3着インディチャンプに乗っていたのは福永祐一である。四年前の秋、阪神の未勝利戦でこの馬に初めての勝利を与えた男だった。 安田隆行にとって高松宮記念は、2012年のカレンチャン、2013年のロードカナロアに続く三度目になる。香港スプリントと高松宮記念。この馬が勝った二つのGIは、どちらも父が勝ったレースだった。

出典:日本中央競馬会「2021年 高松宮記念 これがこの馬の底力だ! ダノンスマッシュが激戦を制す」2021年3月28日、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/takamatsu/result/takamatsu2021.html 、閲覧日:2026年7月25日。

三年目のシャティン ― 二〇二一年十二月と、その先

4月25日、チェアマンズスプリントプライズ。モレイラを背に、日本でも香港でも1番人気に推された。道中はスムーズに外へ持ち出されたものの、最後は余力がなく6着。勝ったのはウェリントンである。 夏を休養に充て、10月3日のスプリンターズステークスへ直行した。春秋のスプリントGI制覇がかかっていた。1番人気。だが直線で伸び脚を欠き、0秒7差の6着に終わる。勝ったのはピクシーナイトだった。 引退レースは、三年連続となる12月12日の香港スプリントに決まった。鞍上は川田将雅。 中団を追走して直線の入口に差しかかったところで、前を行く香港のアメージングスターが故障を発生した。ダノンスマッシュはそれに巻き込まれる形になり、落馬こそ免れたが、大きく離された8着で走り切っている。このレースでは4頭が競走を中止した。ピクシーナイトに騎乗していた福永祐一はシャティン市内の病院に運ばれ、左鎖骨骨折と診断されている。2着はレシステンシアだった。 12月23日付で競走馬登録抹消。26戦11勝。京阪杯、シルクロードステークス、キーンランドカップ、オーシャンステークス、京王杯スプリングカップ、セントウルステークス、高松宮記念――JRAの重賞を七つと、香港のGIをひとつ。獲得賞金は7億6393万円だった。 北海道日高町のブリーダーズ・スタリオン・ステーションで種牡馬になった。サンデーサイレンスの血を持たないぶん配合の相手を選ばず、父より安い種付料もあって、初年度の申し込みは早々に満口になっている。2026年の種付料は、受胎確認後150万円。 2025年7月12日、小倉の2歳新馬をナムラドロンが勝ち、産駒がJRAで最初の勝ち星を挙げた。2026年1月にはレオアジャイルがフェアリーステークスで3着に入っている。重賞のタイトルは、まだない。 母スピニングワイルドキャットはその後もロードカナロアに繰り返し配合され、2020年にダノンプレジャー、2022年にハリウッドメモリーと、全弟妹が生まれた。 安田隆行は2024年3月5日、定年で調教師を引退した。最後のセレモニーが行われたのは小倉である。騎手として落馬から立ち直る足がかりをくれた場所だった。その二か月半後、次男の安田翔伍がダノンデサイルで東京優駿を勝つ。1991年にトウカイテイオーで同じレースを勝った父とは、騎手と調教師という別々の立場での父子制覇になった。 日高の丘に、大外の枠はない。内で横一線になる先行勢もいない。父の使っていた馬房から始まった馬が、父の勝った二つのゴール板を、どちらも先頭で過ぎてみせた。あとは、その速さが誰に渡るかである。

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