名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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ダノンスコーピオンのイメージビジュアル
ダノンスコーピオンDanon Scorpion
Danon Scorpion

ダノンスコーピオン

通算成績26戦4勝

獲得賞金25,175万円

生年月日 2019.02.22(令和元年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ダノンスコーピオンの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
11 GIII武蔵野S 東京 ダ1600 14人気 小崎綾也 1:36.4 上り36.1映像
5 JpnⅢクラスターカップ 盛岡 ダ1200 4人気 山本聡哉 1:10.6 上り35.1
9 GIII東海S 中京 ダ1400 12人気 幸英明 1:24.0 上り36.2映像
6 JpnⅢ東京スプリント 大井 ダ1200 6人気 笹川翼 1:11.6 上り36.4
8 GIIIマーチS 中山 ダ1800 13人気 大野拓弥 1:52.4 上り38.8映像
8 GIII阪急杯 京都 芝1400 13人気 和田竜二 1:22.1 上り34.2映像
10 GII阪神カップ 京都 芝1400 14人気 団野大成 1:20.6 上り33.9映像
9 GIIMBS賞スワンS 京都 芝1400 11人気 A.シュタルケ 1:20.9 上り34.7映像
15 GIスプリンターズS 中山 芝1200 16人気 戸崎圭太 1:07.8 上り33.5映像
12 GII産経賞セントウルS 中京 芝1200 5人気 戸崎圭太 1:08.3 上り33.1映像
15 GI安田記念 東京 芝1600 11人気 戸崎圭太 1:33.6 上り34.4映像
4 GII京王杯スプリングカップ 東京 芝1400 6人気 戸崎圭太 1:20.2 上り33.1映像
13 GII阪神カップ 阪神 芝1400 12人気 団野大成 1:20.0 上り35.2映像
13 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 15人気 団野大成 1:34.0 上り35.4映像
12 GIII中京記念 中京 芝1600 4人気 横山和生 1:34.2 上り35.4映像
13 GI安田記念 東京 芝1600 14人気 M.デムーロ 1:32.4 上り34.3映像
11 GII京王杯スプリングカップ 東京 芝1400 1人気 川田将雅 1:20.8 上り33.5映像
6 GI香港マイル シャティン 芝1600 4人気 W.ビュイック 映像
11 GIマイルチャンピオンS 阪神 芝1600 4人気 川田将雅 1:33.3 上り34.2映像
3 GII富士S 東京 芝1600 2人気 川田将雅 1:32.1 上り33.6映像
1 GINHKマイルカップ 東京 芝1600 4人気 川田将雅 1:32.3 上り34.3映像
1 GIIIアーリントンC 阪神 芝1600 1人気 川田将雅 1:32.7 上り33.6
7 GIII共同通信杯 東京 芝1800 4人気 川田将雅 1:48.8 上り34.3映像
3 GI朝日杯フューチュリティステークス 阪神 芝1600 4人気 松山弘平 1:33.7 上り34.6映像
1 L萩S 阪神 芝1800 2人気 川田将雅 1:48.5 上り33.5
1 2歳新馬 阪神 芝1600 1人気 川田将雅 1:38.7 上り34.0

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ダノンスコーピオンの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ロードカナロアLord KanaloaキングカメハメハKing KamehamehaKingmambo
マンファスManfath
レディブラッサムStorm Cat
サラトガデューSaratoga Dew
レキシールーLexie LouSligo BaySadler's Wells
Angelic Song
OneexcessiveniteIn Excess
Favored One
STORY

旅程 — この馬の物語

2019年生まれの鹿毛の牡馬。父ロードカナロア、母レキシールー。主な勝ち鞍はNHKマイルC・アーリントンC。

赤い蠍 ― 名と血

ダノンスコーピオン。ダノンは馬主ダノックス(野田家)の冠、固有の名はスコーピオン=サソリである。香港では「野田赤蠍」と綴られた。長い尾の先に、たった一本の毒針を持つ生き物。この馬が競馬史に残した一勝も、まさにその一突きのような勝負だった。 父はロードカナロア。香港スプリントを日本馬として初めて制し、翌年も連覇した快速王で、育てたのは栗東の安田隆行厩舎である。母はレキシールー。カナダで三冠の一冠と牝馬三冠の二冠を奪い、二〇一四年の年度代表馬に選ばれた女傑で、アメリカのハリウッドダービーでは米国の名馬カリフォルニアクロームの二着に食い下がった。短距離の父に、大陸を制した母。その仔が、父を送り出したのと同じ安田厩舎から、二〇一九年二月生まれの鹿毛として世に出た。手綱を託されたのは川田将雅。この男が、一頭の素質馬を新馬のうちから見込み、その約束を果たすまでを共に歩むことになる。

二歳の秋 ― 順風と、一度の乗り替わり

二〇二一年六月二十日、阪神芝千六百メートルの新馬戦。単勝一番人気に推されたダノンスコーピオンは、川田を背にきっちりと勝ち上がった。十月の萩ステークス(阪神・芝千八百)も、同じ川田で人気に応えて連勝。素質は早くから本物だった。 だが暮れの朝日杯フューチュリティステークスで、主戦は鞍上にいなかった。川田が前週の香港国際競走に遠征し、新型コロナウイルス対策の隔離対象となって帰国後の騎乗が叶わなかったためである。代わって手綱を取った松山弘平は、四番人気のこの馬を三着に持ってきた。勝ったのは武豊のドウデュース、二着はセリフォス。世代の頂点争いに、ダノンスコーピオンの名は確かに残った。

立て直し ― 春への回り道

明けて二〇二二年、緒戦の共同通信杯(東京・芝千八百)でつまずく。川田が戻った一戦だったが、四番人気で七着。千八百の距離が、この馬には少し長かった。 陣営は舞台をマイル前後に絞り直す。四月のアーリントンカップ(阪神・芝千六百)、一番人気に応えて危なげなく抜け出し、重賞の初タイトルを掴んだ。川田は、前走は競馬にならなかったが今回は道中のバランスが良く、この馬らしい走りができたと手応えを語り、この馬を褒めてやりたいと振り返った。躓きを一つ挟んで、歯車は噛み合った。目指す先は、五月の府中に決まっていた。

一突き ― NHKマイルカップ二〇二二

二〇二二年五月八日、東京。大外八枠十八番、単勝七・一倍の四番人気。恵まれた枠とは言えなかった。 スタートからキングエルメスとトウシンマカオが先頭を争い、ダノンスコーピオンは中団で脚をためた。直線、川田が持ち出すと馬群を割って先頭へ。残り二百メートルで先頭に立ったその外から、マテンロウオリオンが怒涛の勢いで、さらに最後方近くにいたカワキタレブリーも鋭く伸びてくる。三頭が府中の直線になだれ込み、ダノンスコーピオンは追い縋る二頭をそれぞれクビ差だけ凌ぎ切った。時計は一分三十二秒三。 川田は勝利の直後、こう明かしている。「差はわずかでしたし、外の勢いもとても良かったので、何とかしのいでくれと思いながらのゴールだった」[^1]。そして続けた――このNHKマイルカップを目標にというのは、デビューした時からの思いだった、と。新馬のうちに見込んだ素質が、一年をかけてGIの一勝に結実した瞬間だった。父ロードカナロアと同じ厩舎から、また一頭、大レースの勝ち馬が生まれた。

出典:中日スポーツ「ダノンスコーピオンでV、川田将雅インタビュー『外の勢いとても良かった』」2022年5月8日配信、https://www.chunichi.co.jp/article/466613 、閲覧日:2026年7月19日。

長い下り坂

頂点は、しかし遠い分水嶺になった。秋の富士ステークスで二番人気三着と好走したものの、続くマイルチャンピオンシップは十一着。暮れの香港マイルは六着だった。 二〇二三年、京王杯スプリングカップでは一番人気に支持されながら十一着に沈む。以降も二桁着順が続き、四歳を一勝もできずに終えた。マイルで駄目なら短距離へ、芝で駄目ならダートへ――陣営は活路を探し、五歳の二〇二五年にはついにダート戦へと矛先を変えた。育ての安田隆行厩舎から、父ロードカナロアの鞍上を務めたこともある福永祐一の新しい厩舎へ転厩したのもこの下り坂の途中である。川田も離れ、手綱は幸英明、大野拓弥、小崎綾也と次々に替わっていった。NHKマイルカップの栄冠のあと、この馬は二十戦を一度も勝てなかった。それでも毎回ゲートに入り、坂路を上り、走り続けた。掴んだGIが一つきりであることは、走り抜いた二十六戦の価値を少しも削らない。

血は北から南へ ― 遺したもの

二〇二五年十一月十五日の武蔵野ステークス十一着が、最後の一戦になった。翌二〇二六年一月七日付でJRAの登録を抹消され、ダノンスコーピオンは南アフリカで種牡馬となるべく海を渡った。北米の女傑レキシールーから受け継いだ血が、遠いアフリカ大陸の空の下へ運ばれていく。 だが、血はここで途切れない。父ロードカナロア、母レキシールーを同じくする全妹ギャラボーグが、二〇二五年の阪神ジュベナイルフィリーズで二着、二〇二六年の桜花賞でも二着と、大レースの際どい二着を続けて走った。兄が幾度も届きそうで届かなかったタイトルの縁を、妹もまた歩いている。その阪神ジュベナイルフィリーズで手綱を取ったのは、一族を知る川田将雅だった。兄で頂点を掴んだ男が、妹の背にもう一度戻ってきたのだ。 サソリの一突きで奪い取った、府中のたった一勝。派手な連勝でも、長い王朝でもない。それでも、川田が新馬のうちに見込んだ素質は確かに一つのGIになり、一族の物語となって残った。北の大陸から来た血が南の空へ渡り、日本では妹が桜の舞台に立つ。名馬の遺したものは、勝ち星の数だけでは量れない。

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