名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

スライダーを動かすと、その世代に生まれた馬を獲得賞金の多い順で表示します。

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カレンチャンのイメージビジュアル
カレンチャンCurren Chan
Curren Chan

カレンチャン

通算成績18戦9勝

獲得賞金44,906万円

生年月日 2007.03.31(平成19年)毛色 芦毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
カレンチャンの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
7 GI香港スプリント 香港 芝1200 池添謙一 1:09.1 映像
2 GIスプリンターズS 中山 芝1200 1人気 池添謙一 1:06.8 上り33.7映像
4 GIIセントウルS 阪神 芝1200 3人気 池添謙一 1:07.4 上り34.1
1 GI高松宮記念 中京 芝1200 2人気 池添謙一 1:10.3 上り35.5映像
4 GIII夕刊フジオーシャンS 中山 芝1200 1人気 池添謙一 1:09.4 上り35.6
5 GI香港スプリント 香港 芝1200 5人気 池添謙一 1:09.3 映像
1 GIスプリンターズS 中山 芝1200 3人気 池添謙一 1:07.4 上り33.8映像
1 GIIIキーンランドカップ 札幌 芝1200 1人気 池添謙一 1:08.6 上り35.5映像
1 GIII函館スプリントS 函館 芝1200 1人気 池添謙一 1:08.0 上り34.5映像
1 GIIサンスポ杯阪神牝馬S 阪神 芝1400 1人気 池添謙一 1:20.4 上り34.4映像
1 山城S 京都 芝1200 1人気 川田将雅 1:09.2 上り34.7
3 伏見S 京都 芝1200 1人気 池添謙一 1:09.3 上り34.2
1 潮騒特別 函館 芝1200 2人気 池添謙一 1:08.8 上り34.2
2 OP葵S 京都 芝1200 2人気 池添謙一 1:07.6 上り34.0
8 GIIフィリーズレビュー 阪神 芝1400 6人気 鮫島良太 1:23.2 上り35.3
1 萌黄賞 中京 芝1200 2人気 鮫島良太 1:09.7 上り35.3
1 3歳未勝利 京都 ダ1200 1人気 国分恭介 1:13.1 上り37.0
2 2歳新馬 阪神 ダ1200 1人気 武豊 1:14.3 上り37.3

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
カレンチャンの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
クロフネKurofuneフレンチデピュティFrench DeputyDeputy Minister
Mitterand
ブルーアヴェニューBlue AvenueClassic Go Go
Eliza Blue
スプリングチケットトニービンTony BinカンパラKampala
Severn Bridge
カズミハルコママルゼンスキーMaruzensky
センシユータカラ
STORY

旅程 — この馬の物語

2007年生まれの芦毛の牝馬。父クロフネ、母スプリングチケット。主な勝ち鞍はスプリンターズS・高松宮記念・サンスポ杯阪神牝馬S。

娘の名を、そのまま ― 名前と血

神戸で眼科医院を営む鈴木隆司は、幼い頃から馬が好きだった。母に連れられて通ったのは園田競馬場。騎手になりたいと思っていたが、小学六年で背が百六十センチ近くまで伸びて断念し、それならば馬主になろうと考えて医師の道を選んだ。黒と白の縦縞に袖の赤一本輪という勝負服は、阪神タイガースとユベントスのユニフォームを重ね、白黒をはっきりさせたいという性分と、妻の好む赤とを混ぜた配色である。 冠名の「カレン」は、その鈴木の娘の名前だ。2007年3月31日、北海道千歳の社台ファームに生まれた芦毛の牝馬には、その名に愛称の「チャン」が足された。つまりこの馬の名は、父親が娘を呼ぶときの声とほとんど同じ形をしていた。 父は芦毛の快速馬クロフネ、母スプリングチケットの父はトニービン。デビューは2009年12月26日、阪神のダート1200m。武豊を鞍上に1番人気に推されたが、勝ち馬タカノキングを捉えきれず2着に敗れている。

春の歌 ― 兄と一族

母スプリングチケットは、その二年前にも走る仔を産んでいた。父サクラバクシンオーの牡馬、スプリングソング。名の意味は春の歌である。一年半を超える休養から戻った2010年秋に長岡京ステークスを勝ち、続く京阪杯をハナ差で制して重賞のタイトルを掴んだ。その背に最も多く跨ったのが池添謙一だった。 一族はほかにも走る。母の半弟にあたる叔父タケミカヅチは2008年の皐月賞で2着に入り、翌年ダービー卿チャレンジトロフィーを勝っている。父クロフネ・母スプリングチケットという同じ配合の全姉、アーリースプリングもいた。 その一族の中で、カレンチャンの三歳はまだ静かだった。年明けの未勝利戦をダートで勝ち、中京の萌黄賞を抜け出したが、初めての重賞フィリーズレビューは1400mで伸びを欠いて8着。五月の葵ステークスでは内を突いて先頭に立ちながら、ゴール前でケイアイデイジーに差し切られて2着に終わる。この一戦から手綱を取ったのが、兄の相棒だった池添である。六月の潮騒特別を二馬身半差で勝ち、六戦三勝で休養に入った。同じ世代のアパパネが牝馬三冠を駆け抜けた年、彼女はまだ条件戦にいた。

兄のいない夏 ― 重賞三連勝

四歳の始動戦、京都の伏見ステークスは1番人気で3着。だが二月の山城ステークスから、この馬は止まらなくなる。池添に先約があり代打で乗った川田将雅が、直線入口で逃げ馬を捕らえると、ゴール前は手綱を抑える余裕さえ見せた。 四月九日、阪神牝馬ステークス。1番人気に応えて内から伸び、半馬身差で重賞を初めて勝つ。馬主となって十年余り、鈴木にとっても初めての重賞タイトルだった。 その一か月後の五月八日、半兄スプリングソングが世を去った。春のオープン特別を2着で走ったばかりで、変位疝を発症し、六歳だった。妹の快進撃は、兄のいない夏に続くことになる。 七月、函館スプリントステークス。中団から外に持ち出され、逃げ切りを図るテイエムオオタカをゴール前で捕らえてクビ差。八月、札幌のキーンランドカップ。二、三番手から早めに先頭へ立ち、追いすがるビービーガルダンをまたクビ差で凌いだ。重賞三連勝、自身は四連勝。芝1200mという最も短い舞台で、カレンチャンは押しも押されもせぬ存在になっていた。

二度目のゲート ― 中山の女王

2011年10月2日、中山。秋のGI開幕を告げるファンファーレは、二度鳴った。ゲート入りの途中にビービーガルダンが放馬して競走除外となり、発走がやり直しになったのである。十分以上、馬たちは待たされた。 「一度目はいい感じで気合いが入っていたのに、二度目は落ち着きすぎていた」[^1]。池添の言葉どおり、カレンチャンはスタートダッシュをきかせられなかった。1番人気は世界的な強豪ロケットマン、2番人気はダッシャーゴーゴー、彼女は3番人気。速い流れを、押されながら追いかける形になる。 それでも行き脚は上々だった。三、四コーナーで先行集団に追いつき、目標と定めたロケットマンを前に見る六、七番手の外まで押し上げる。直線、内のロケットマンを突き放し、粘るパドトロワとエーシンヴァーゴウをまとめて交わし去って、一馬身四分の三差。上がり三ハロン33秒8は、出走馬中二番目の速さだった。 二月の条件戦から数えて五連勝でのGI制覇である。鈴木にとって初めてのGI、安田隆行にとっては、前年にトランセンドが開いたダートのGIに続く、芝で初めてのGIだった。年末、カレンチャンはJRA賞最優秀短距離馬に選ばれる。

出典:JRA公式サイト「第45回スプリンターズS 5連勝で頂点へ! カレンチャンがスプリント界の女王に輝く」2011年10月2日、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/sprint/result/sprint2011.html、閲覧日:2026年7月30日。

新しい坂 ― 高松宮記念

十二月、沙田の香港スプリント。四、五番手から進んだが直線で伸びを欠き、ラッキーナインの勝ったレースを5着で終える。年が明けて三月のオーシャンステークスも1番人気で4着。女王の座を危ぶむ声が出はじめていた。 三月二十五日、高松宮記念。舞台は改装されたばかりの中京で、四百メートルを超える直線に、新たな急坂が設けられていた。1番人気は、芝1200mで五連勝中の同厩の一歳下、ロードカナロア。カレンチャンは2番人気に甘んじる。 ゲートを出るなり二番手につけ、折り合ったままコーナーを回り、直線で逃げるエーシンダックマンを交わしにかかった。内でロードカナロアが仕掛け、外からは同じ厩舎のダッシャーゴーゴーが食らいついてくる。だが並びかけさせない。最後に大外から鋭く伸びたサンカルロを、クビ差だけ抑えた。勝ち時計は1分10秒3。1分07秒4で走り抜けた中山のスプリンターズSとは別種の、力の要る一分十秒だった。 「正攻法。強かった」[^1]と鞍上の池添は言った。三着ロードカナロア、四着ダッシャーゴーゴー。一着とあわせて三頭が安田隆行厩舎の馬である。牝馬でスプリントのGIを春秋とも勝ったのは、フラワーパーク、ビリーヴに続いて三頭目だった。

出典:JRA公式サイト「第42回高松宮記念 女王復権! カレンチャンがスプリントGI連覇を果たす」2012年3月25日、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/takamatsu/result/takamatsu2012.html、閲覧日:2026年7月30日。

同じ馬運車 ― 弟分に抜かれた日

秋のセントウルステークスは3番人気で4着。人気でも着順でも、二着に入ったロードカナロアが前に出た。それでも九月三十日のスプリンターズステークスでは、スプリントGI三連覇を狙うカレンチャンが1番人気に推される。同じ厩舎で、同じ馬運車に積まれて中山へ来た二頭だった。 五頭が並んで先陣を争い、前半600mは32秒7。その流れを見て、すっと好位に控えたのが彼女である。直線、残り二百メートルで先行勢を交わして先頭に立つ。外から馬体を合わせにきたのがロードカナロアだった。叩き合いは四分の三馬身、凱歌はロードカナロアに上がる。勝ち時計は1分06秒7のレコード。カレンチャンの1分06秒8もまた、自身の生涯最速だった。この日、馬体は十二キロ減っていた。 十二月九日、沙田。引退レースと決めた香港スプリントは、出遅れが響いて7着に終わる。勝ったのはロードカナロアで、日本馬として初めてこのレースを制した。世界の壁が破られたその場所に、彼女は最後の一戦として立ち会っていた。

カレンの名は続く ― 千歳へ帰る

2013年1月20日、京都競馬場で引退式が行われた。十八戦九勝、獲得賞金四億四千九百六万円。2011年の最優秀短距離馬、2012年の最優秀四歳以上牝馬。四歳の春から五歳の暮れまで、この馬はスプリント路線の真ん中に居続けた。 生まれ故郷の社台ファームへ帰り、繁殖牝馬になった。初仔は父ノヴェリストのカレンスレイ、十五戦六勝。二番仔は牝馬のカレンモエで、父はロードカナロア――最後の二戦で母の前に出た、あの馬である。母と同じ安田隆行厩舎から短距離を走り、京阪杯、オーシャンステークス、函館スプリントステークスと、いずれも1番人気で二着に入った。母が制した函館スプリントステークスでも、あと半歩が遠かった。 血はさらに枝分かれする。全姉アーリースプリングの娘テリオスベルは、ダートの交流重賞でクイーン賞とブリーダーズゴールドカップを勝った。カレンモエは繁殖に上がり、2023年、カレンブラックヒル――同じ黒と白の勝負服でNHKマイルカップを勝った馬――との間に牡馬を産んで、カレンチャンは祖母になった。 2024年をもって繁殖牝馬を退き、いまは生まれた牧場で余生を過ごしている。娘を呼ぶ声から取られた名前は、いつのまにか呼ばれる側の名になり、次の世代へ渡されていった。

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