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チェルヴィニア
通算成績14戦4勝
獲得賞金4億2,626万円
生年月日 2021.02.03(令和3年)毛色 鹿毛性 牝
全成績
主要戦績(抜粋)・新しい順| 年月日 | 着順 | レース | コース | 人気 | 騎手 | タイム | 上り3F | 映像 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 16 | GIヴィクトリアマイル | 東京 芝1600 | 6人気 | D.レーン | 1:32.0 | 上り34.4 | 映像 | |
| 5 | GII中山記念 | 中山 芝1800 | 5人気 | C.ルメール | 1:45.5 | 上り33.7 | 映像 | |
| 10 | GIマイルチャンピオンS | 京都 芝1600 | 8人気 | T.マーカンド | 1:32.2 | 上り33.3 | 映像 | |
| 7 | GII毎日王冠 | 東京 芝1800 | 3人気 | 戸崎圭太 | 1:44.7 | 上り33.8 | 映像 | |
| 2 | GIIIしらさぎS | 阪神 芝1600 | 1人気 | C.ルメール | 1:33.2 | 上り33.9 | 映像 | |
| 6 | GIドバイシーマクラシック | メイダン 芝2410 | 6人気 | C.ルメール | — | 映像 | ||
| 9 | GII京都記念 | 京都 芝2200 | 1人気 | C.ルメール | 2:16.7 | 上り35.3 | 映像 | |
| 4 | GIジャパンカップ | 東京 芝2400 | 2人気 | C.ルメール | 2:25.9 | 上り33.4 | 映像 | |
| 1 | GI秋華賞 | 京都 芝2000 | 1人気 | C.ルメール | 1:57.1 | 上り34.2 | 映像 | |
| 1 | GI優駿牝馬 | 東京 芝2400 | 2人気 | C.ルメール | 2:24.0 | 上り34.0 | 映像 | |
| 13 | GI桜花賞 | 阪神 芝1600 | 4人気 | B.ムルザバエフ | 1:33.4 | 上り34.8 | 映像 | |
| 1 | GIIIアルテミスS | 東京 芝1600 | 1人気 | C.ルメール | 1:33.6 | 上り33.3 | 映像 | |
| 1 | 2歳未勝利 | 新潟 芝1800 | 1人気 | C.ルメール | 1:46.9 | 上り33.0 | — | |
| 2 | 2歳新馬 | 東京 芝1600 | 1人気 | C.ルメール | 1:34.7 | 上り33.4 | — |
血統
金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ| 父ハービンジャーHarbinger | Dansili | デインヒルDanehill |
| Hasili | ||
| Penang Pearl | Bering | |
| Guapa | ||
| 母チェッキーノ | キングカメハメハKing Kamehameha | Kingmambo |
| マンファスManfath | ||
| ハッピーパス | サンデーサイレンスSunday Silence | |
| ハッピートレイルズHappy Trails |
旅程 — この馬の物語
2021年生まれの鹿毛の牝馬。父ハービンジャー、母チェッキーノ。主な勝ち鞍は優駿牝馬・秋華賞・アルテミスS。
鹿の角の村 ― 名前と血
馬名は、イタリアの山あいの村から採られている。チェルヴィニア。マッターホルンの南麓、標高二千五十メートルの谷のどん詰まりにある集落だ。この山のイタリア名はモンテ・チェルヴィーノ――鹿の角、を意味する。鹿の角の峰の麓の村の名を、鹿毛の牝馬が背負った。母チェッキーノの名もまたイタリアの響きで、母から娘へ、南の山の空気がそのまま手渡されている。 血の背骨は、日本の名門牝系へまっすぐ伸びる。母チェッキーノはフローラステークスを勝ち、二〇一六年の優駿牝馬で二着に泣いた一頭。母の父はキングカメハメハ、祖母ハッピーパスは京都牝馬ステークスの勝ち馬だった。母の全兄には東京スポーツ杯二歳ステークスを制したコディーノ、そしてチェルヴィニア自身の半兄には、この馬がデビューした二〇二三年の秋に新潟記念を勝ち上がったノッキングポイントがいる。父はイギリスのキングジョージを圧勝したハービンジャー。母系の粘りに、欧州の重厚な血が重なった。 馬主はサンデーレーシング、生まれ育ったのはノーザンファーム。美浦の木村哲也厩舎に入り、手綱を託されたのはクリストフ・ルメール。この牝馬の物語は、最初から最後までこの名手の掌の上で回っていく――と、このときは誰もが思っていた。
新潟の夏から、府中の秋へ ― デビューとアルテミスS
二〇二三年六月四日、東京。新馬戦は一番人気に推された。好スタートから思い切って前に出た鹿毛は、直線で懸命に逃げ粘る。だが最後の最後、外から一頭に差し切られて二着。彼女を負かして初陣を飾ったのは、のちに何度も道で交わることになるボンドガールだった。始まりは、半馬身の黒星から。 夏の新潟に場所を移した未勝利戦を今度は一番人気に応えて勝ち上がると、秋、東京マイルのアルテミスステークスへ。好位の五番手から直線で鋭く伸び、二着サフィラに一馬身四分の三の差をつけて重賞初制覇。新馬・未勝利・オープン重賞――ここまで背にあったのは、すべてルメールの手綱だった。同じ秋、半兄ノッキングポイントが新潟記念で名を上げていた。血の一族が、姉と弟でそれぞれの扉を開けていく季節だった。
空席の桜 ― 名手を欠いた一冠目
二〇二四年三月三十日、ドバイ。ルメールはドバイターフで一頭のアメリカ馬に跨っていた。最後の直線、そのアメリカ馬が脚を失った刹那に、名手は宙へ投げ出される。鎖骨と肋骨を折り、肺には穴が開いていた。主催者は、二週間の現地滞在を発表する。数日後に控えた桜花賞の騎乗依頼は、こうして白紙になった。 四月七日、阪神。ルメールを欠いたチェルヴィニアは、ムルザバエフを鞍上に四番人気で桜のゲートに入った。だが休み明けの馬は直線で反応を欠き、十三着に沈む。牝馬の一冠目を制したのは、同世代のステレンボッシュ。片や名手を失い、片や桜の女王となる――クラシックの春は、残酷なほど静かに二頭の明暗を分けた。彼女の桜には、いるべき人の姿がなかった。
ただいま、府中 ― 母が届かなかったオークス
五月、ルメールが戦列に戻ってきた。復帰から二週、迎えたのは優駿牝馬。府中の芝二千四百は、八年前に母チェッキーノが二着に泣いた、あの舞台である。桜の女王ステレンボッシュが一番人気、チェルヴィニアはその次に推された。 直線、内から鋭く伸びるステレンボッシュに、外からチェルヴィニアが並びかける。残り二百メートルからの叩き合いは、一完歩ごとに鹿毛がわずかに前へ出た。二分二十四秒〇。桜で先着を許した相手を、この日は半馬身だけ抑え込んでのゴールだった。母が指の先で取りこぼした頂に、娘が立つ。ルメールは復帰初のGIをこの馬で掴み、こう言った。「今日は自信があった。直線は本当のチェルヴィニアの姿が見えたと思う」[^1]。桜の空席は、府中の直線で静かに埋められた。
出典:テレビ東京「【オークス】C.ルメール『チェルヴィニアでクラシックを』信じた先に待っていた 女王への頂」2024年5月19日配信、https://www.tv-tokyo.co.jp/sports/articles/2024/05/034049.html、閲覧日:2026年7月16日。
二つ目の頂 ― 秋華賞、牝馬二冠
十月十三日、京都。秋華賞のチェルヴィニアは、当然のように一番人気を背負った。逃げ馬が大きなペースで飛ばし、先頭までは十五馬身。彼女は七、八番手で脚を溜め、直線を待つ。だが前が壁になり、進路がない。ルメールが動いたのは残り半ばだった。馬群にひとつ分の隙間が開くと、鹿毛は弾かれたように加速し、割って出る。ゴール前百メートルで先頭に立ち、二着ボンドガールに一馬身四分の三――デビュー戦で自らを差し切ったあの相手を、最も大きな舞台で抑え返した。桜の女王ステレンボッシュも、この日は前に出させなかった。 一分五十七秒一。優駿牝馬と秋華賞、牝馬二冠。ルメールは狭い隙間を突いた一瞬をこう振り返っている。「いいポジションを取れたことで自分のリズムで走れて、冷静に走ったらいい加速ができた」[^1]。年の暮れ、チェルヴィニアは最優秀三歳牝馬に選ばれた。名手を欠いて落とした桜の一冠は、名手とともに二つの頂で釣り合いを取り戻していた。
出典:テレビ東京「【秋華賞】チェルヴィニアが牝馬二冠達成!ひと夏を越えて、さらに深まる絆」2024年10月13日配信、https://www.tv-tokyo.co.jp/sports/articles/2024/10/035803.html、閲覧日:2026年7月16日。
四着の矜持と、長い一年
二〇二四年十一月、ジャパンカップ。二冠牝馬は三歳の身で、古馬の牡馬が居並ぶ府中の芝二千四百へ挑んだ。中団から直線で伸びたが、勝ったドウデュース、そしてシンエンペラーに前を譲り、四着。勝ち馬とはコンマ四秒差。世代の頂に立った牝馬が、世界基準の一線級に真っ向から食い下がった、負けて誇れる一戦だった。 年が明けると、歯車は噛み合わなくなる。一番人気に推された京都記念で九着、ドバイシーマクラシックは六着。一番人気のしらさぎステークスも差し込まれて二着に敗れ、毎日王冠は七着、マイルチャンピオンシップは十着。中距離で頂に立った脚を、どの距離のどの間合いに置けばもう一度弾けるのか――陣営はマイル路線に答えを探しながら、長いトンネルを歩いた。栄光のすぐ隣に、勝ち切れない季節の影が差していた。
山の名は、走り続ける
二〇二六年、五歳。中山記念で五着に見せ場を作り、ヴィクトリアマイルでは大敗もした。それでもチェルヴィニアは、まだターフの上にいる。十四戦四勝、うち二つが牝馬クラシックのGI。勝ち切れない一年が続いても、優駿牝馬と秋華賞の二冠が記録から消えることはない。 母チェッキーノが届かなかったオークスの頂を娘が踏み、新潟記念を勝った半兄の血に、二冠という格を重ねた一頭。名の由来となったあの村は、地名改革のさなかに一度その名を公式から失い、のちに取り戻したという。ちょうどその季節、海の向こうでは同じ名の牝馬が、桜の惨敗から立て直して二つの頂に立っていた。山の名は、馬の背で走り続けていた。 勝ち星から遠ざかろうと、あの狭い隙間を割って出た加速は、まだ脚の奥に眠っている。鹿の角の峰を仰ぐように、この牝馬がもう一度、頂を見上げて駆け上がる日を待てばいい。
馬名のルーツを巡る
ブレイユ=チェルヴィニアイタリア・ヴァッレ・ダオスタ州海外
南から仰ぐマッターホルン——「鹿の角」の村チェルヴィニア
馬名は、マッターホルン山麓の集落の名にちなむ。この山のイタリア名は「モンテ・チェルヴィーノ」——鹿の角、の意だ。その名を分けた村がチェルヴィニア。鹿の角の峰の麓の村の名を、鹿毛の牝馬が背負った。
標高2,050m、ヴァッレ・ダオスタの谷のどん詰まり。村のどこからでも、正面にマッターホルン(4,478m)が立っている。ツェルマット側から見る研ぎ澄まされた牙とは別の山かと思うほど、南から仰ぐ頂は岩の大伽藍のように裾を広げ、日が沈むころ、谷が藍に沈んでも頂だけが茜色に残る。
この村の贅沢は、夏が来ても白いことだ。リフトを乗り継いで標高3,500mのプラトー・ローザに上がれば、8月でも氷河のゲレンデが開いていて、雲より高いところをスキーで滑れる。尾根の向こうはもうスイス。雪の上を国境を越えて、ツェルマット側へ滑り込むこともできる。
滑らない日は、村はずれのラーゴ・ブルーへ。青の名を持つ小さな湖で、風の落ちた朝夕、水面に逆さのチェルヴィーノが浮かぶ。日が暮れたら、この谷が12世紀から作り続けるフォンティーナチーズをとろけさせ、ポレンタに絡める一皿を。山の匂いのする、素朴であたたかい味だ。
ところでこの村、2023年の地名改革で公式名から「チェルヴィニア」が一度消え、騒動の末の2025年1月に名を取り戻している。海の向こうでその名の馬が桜花賞13着から立て直し、優駿牝馬と秋華賞——二つの頂に立ったのは、ちょうど村が名を失っていた季節だった。山の名は、馬の背で走り続けていた。名前の続きは、現地で確かめればいい。
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