名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

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ブリックスアンドモルタルのイメージビジュアル
ブリックスアンドモルタルBricks and Mortar
Bricks and Mortar

ブリックスアンドモルタル

通算成績6戦4勝

獲得賞金(海外含む・概算)約23,088万円

生年月日 2014.03.02(平成26年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ブリックスアンドモルタルの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム映像
1 GIBCターフ サンタアニタパー 芝2400 1人気 オルティ 2:24.7 映像
1 GIアーリントンミリオン アメリカ 芝2000 1人気 オルティ 1:59.4
1 GIペガサスWCT アメリカ 芝1900 Iオルテ
3 GIIIヒルプリンスS ベルモントパーク 芝1800 JoelRos
3 GIIIサラナックS アメリカ 芝1800 JoelRos
1 GIIホールオブフェイムS アメリカ 芝1700 JoelRos

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ブリックスアンドモルタルの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
Giant's CausewayStorm CatStorm Bird
Terlingua
Mariah's StormRahy
イメンスImmense
Beyond the WavesOcean CrestStorm Bird
S.S.Aroma
ExcedentExceller
Broadway Lullaby

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2014年生まれの黒鹿毛の牡馬。父Giant's Causeway、母Beyond the Waves。主な勝ち鞍はペガサスWCT・アーリントンミリオン・BCターフ。

煉瓦と漆喰 ― 名と血

Bricks and Mortar――煉瓦と漆喰。英語ではその二語で「建物そのもの」を指し、転じて、画面の向こう側ではなく手で触れられる実体のあるものを言う。日本では、そのまま片仮名でブリックスアンドモルタルと呼ばれた。 2014年3月2日、アメリカ・ケンタッキー生まれの黒鹿毛。父はジャイアンツコーズウェイ。北アイルランドの海岸に数万本の玄武岩の柱が積み重なる、あの奇観と同じ名を持つ馬である。2000年に三歳で英愛のGIを五つ勝ち、その頑健さから「アイアンホース」と呼ばれた。母の名はBeyond the Waves――波の向こう。フランスでリステッド競走を勝ち、G2でも好走した堅実な牝馬だった。石を積んで海へ延びていく道の血に、煉瓦と漆喰の名が置かれた。 血統表には、父の父ストームキャットと母の父オーシャンクレストを通じたストームバードの3×3が刻まれている。半姉には米GIIIを勝ったエメラルドビーチ(Emerald Beech)。生産者はジョージ・ストローブリッジ。2015年のキーンランド9月セールで20万ドルの値が付き、セス・クラーマンのクラーヴィッチ・ステーブルズ(Klaravich Stables)とウィリアム・ローレンスの所有馬となった。預けられた先は、アメリカの芝路線を支配しつつあった調教師チャド・ブラウンの厩舎である。

四連勝 ― 三歳、サラトガの夏

2017年2月18日、ガルフストリームパーク。芝1700mのデビュー戦で、この黒鹿毛はようやく競馬場に姿を見せた。中団から追い上げて1馬身3/4差の初勝利。鞍上はジョエル・ロサリオだった。 6月9日にベルモントパークの条件戦を勝ち、7月4日には同じベルモントのマニラステークス。こちらは最後方から残り400mで動いてクビ差、という勝ち方である。8月4日、サラトガのホールオブフェイムステークス(GII)で初めて重賞に挑むと、1番人気は、のちに芝とダートの双方でGIを勝つヨシダだった。直線で前が詰まりかけながら、開いた隙間で一気に加速して3/4馬身差。デビューから四連勝で、重賞のタイトルを手にした。 だが秋、勝負の目盛りがわずかにずれる。9月のサラナックステークス3着、10月のヒルプリンスステークス3着。いずれも僅差だった。二度目に前を行ったのは、夏に負かしたヨシダである。ブラウンは晩秋のハリウッドダービーを見据えていた。異変が起きたのは、その準備の最中だった。

四百四十日 ― 右後肢の異変

右の後肢が、歩くたびに不自然に跳ね上がる。ストリングハルト――神経と筋の連係が乱れ、後肢が異常に屈曲してしまう疾患だった。症状は次第に重くなり、やがてギャロップさえできなくなる。 11月10日、獣医のラリー・ブラムレッジが執刀した。後肢の外側趾伸筋の、筋と腱の接合部を切除する手術である。それで一直線に戻れたわけではない。骨のリモデリングという別の問題が続き、一度は調教で試して、まだ時間が要ると分かった。元の走りに戻れる見込みは五分五分と伝えられていた。 その空白のあいだに、父が世を去っている。2018年4月16日、アシュフォードスタッド。アイアンホースと呼ばれた馬は21歳だった。 12月22日、ガルフストリーム。ヒルプリンスステークスから440日、この馬はゲートに戻ってきた。手綱はイラッド・オルティスJr.に替わっている。直線で執拗に伸びて半馬身。何事もなかったかのような勝ち方だった。のちにブラウンは、この復活をこう振り返っている。「ブラムレッジ先生が、また魔法をかけてくれた」[^1]。だが彼の安堵は、この一勝では終わらない。

出典:Thoroughbred Daily News「Down and Possibly Out, Bricks and Mortar Has Climbed to the Top」2019年8月6日配信、https://www.thoroughbreddailynews.com/down-and-possibly-out-bricks-and-mortar-has-climbed-to-the-top/、閲覧日:2026年7月26日。

ペガサスから ― 二〇一九年、冬から夏へ

2019年1月26日、ガルフストリームパーク。この年に創設された芝のペガサスワールドカップターフ(GI)は、賞金700万ドル。1900mは、それまでで最も長い距離だった。渋った馬場で先に抜け出した各馬をまとめて飲み込み、2馬身半差。置き去りにした二着以下の中に、あのヨシダがいた。一年あまり前に前を行かれた相手を、復帰二戦目で逆に置き去りにしたことになる。 3月、フェアグラウンズのG2をハナ差でしのぐ。5月4日、ケンタッキーダービーと同じ日のチャーチルダウンズ、ターフクラシック(GI)。13頭立ての12番枠から最初のコーナーで外に振られ、残り200mでは接触もあった。それでもトップハンデを背負ったまま、半馬身差で勝ち切っている。6月8日、ベルモントパークのマンハッタンステークス(GI)は2000mを1分58秒11。道中は先頭から7馬身半も後ろにいて、直線で一気に加速し、1馬身半差をつけた。 勝ち方に派手さはない。必要なだけ差し込み、必要なだけ前に出る。煉瓦を一つずつ積むような勝利を重ねて、この馬は北米の芝の頂に立っていた。

八月の二つの決定 ― アーリントンと、日本

8月10日、アーリントンパーク。単勝1.5倍の圧倒的な支持に応え、アーリントンミリオン(GI)を3/4馬身差で制する。年度代表馬という言葉が、この芝の馬に向けて使われ始めた。 その数日前、彼の行く先はすでに決まっていた。7月30日にディープインパクトを喪ったばかりの、吉田照哉の社台ファームが、8月上旬、種牡馬としての権利を取得したと発表したのである。残るキャリアはアメリカで走り切り、そのあとで日本へ渡る――勝ち続けている馬の、引退の日取りだけが先に決まった。 馬主のセス・クラーマンは、年度代表馬の可能性を問われて、可能性はあると思う、ただ先走りたくはない、と慎重に答えている。この勝利は芝路線全体にとって良いことだ、とも。

アタマ差 ― サンタアニタの十一月

11月2日、サンタアニタパーク。ブリーダーズカップ・ターフの2400mは、この馬が一度も走ったことのない距離であり、ヨーロッパ勢が最も強い舞台でもあった。長い一年を戦い抜いた馬をここへ送ることに、ブラウンは迷いを口にしていた。エプソムダービー馬アンソニーヴァンダイクらが顔を揃え、最大の敵と目された欧州の女傑マジカルは直前に取り消しとなる。 単勝はほぼ1倍。緩い流れに少し行きたがりながら、残り400mでは7番手にいた。直線、前にいたのはユナイテッド(United)。進路が開くと、そこから伸びた。ゴール板の手前で並びかけ、アタマだけ出る。2分24秒73。3着のアンソニーヴァンダイクは、さらに1馬身1/4後ろだった。 「私が乗ったなかで最高の馬かもしれない」[^1]。オルティスの言葉は、一度も負けずに終えた一年の結論でもあった。ブラウンはこの日、自分のキャリアで最大の勝利だと言い切っている。

出典:Horse Racing Nation「Bricks and Mortar gets the distance, wins Breeders' Cup Turf」2019年11月2日配信、https://www.horseracingnation.com/news/Bricks_and_Mortar_gets_the_distance_wins_Breeders_Cup_Turf_123、閲覧日:2026年7月26日。

積まれてゆくもの ― 静内の風の中で

2020年1月、第49回エクリプス賞。241票のうち204票を集めて年度代表馬に選ばれ、最優秀芝牡馬にも圧倒的な支持で選ばれた。ブリーダーズカップ・ターフの勝ち馬が年度代表馬になるのは、1993年のコタシャーン以来のことである。母Beyond the Wavesも、この年のケンタッキー年度代表繁殖牝馬に選ばれた。生涯で喫した敗北は、三歳の秋に並んだ二つの3着だけ。最後は七つの勝利を連ねたまま、彼はターフを去った。 2019年12月23日、社台スタリオンステーションに到着。翌年から供用が始まり、初年度の種付料は600万円だった。初年度産駒は2023年6月に初勝利を挙げ、その秋にはゴンバデカーブースが東京のサウジアラビアロイヤルカップを2馬身差で制する。アンモシエラはJBCレディスクラシックを二年続けて勝ち、ダイヤモンドノットは京王杯2歳ステークスを3馬身差で駆け抜けた。芝の長い距離で頂に立った父の血が、日本では砂を蹴る牝馬を出し、東京の短い距離の重賞を勝つ。2026年からは、新ひだか町のレックススタッドで種牡馬生活を続けている。 「彼のような一頭に出会うには、何千頭を経なければならない」[^1]。チャド・ブラウンはそう言った。ギャロップさえできなくなった三歳の秋から440日を待ち、五歳の一年をまるごと勝ち切らせた男の言葉である。煉瓦と漆喰の名を持つ馬は、いま日高の風の中に立って、自分の血が次に積み上げるものを待っている。

出典:BloodHorse「Bricks and Mortar Named Horse of the Year」2020年1月23日配信、https://www.bloodhorse.com/horse-racing/articles/238079/bricks-and-mortar-named-horse-of-the-year、閲覧日:2026年7月26日。

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