名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

スライダーを動かすと、その世代に生まれた馬を獲得賞金の多い順で表示します。

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ボンネビルレコードのイメージビジュアル
ボンネビルレコードBonneville Record
Bonneville Record

ボンネビルレコード

通算成績74戦9勝

獲得賞金48,271万円

生年月日 2002.03.12(平成14年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ボンネビルレコードの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
9 GI東京大賞典 大井 ダ2000 9人気 的場文男 2:10.2 上り41.4
10 勝島王冠 大井 ダ1800 8人気 的場文男 1:56.6 上り40.2
5 マイルグランプリ 大井 ダ1600 6人気 的場文男 1:41.1 上り39.0
5 東京記念 大井 ダ2400 4人気 的場文男 2:36.8 上り40.1
5 サンタアニタトロフィー 大井 ダ1600 9人気 的場文男 1:40.4 上り39.0
3 OP武蔵野オープン 大井 ダ1600 3人気 的場文男 1:40.0 上り37.9
4 大井記念 大井 ダ2600 8人気 的場文男 2:49.3 上り40.1
8 JpnⅠかしわ記念 船橋 ダ1600 8人気 的場文男 1:40.2 上り38.4
6 OP隅田川オープン 大井 ダ1800 5人気 的場文男 1:52.6 上り36.2
6 東京スプリング盃 大井 ダ1400 9人気 的場文男 1:25.6 上り36.5
7 勝島王冠 大井 ダ1800 4人気 的場文男 1:53.1 上り37.3
7 JpnⅠJBCクラシック 大井 ダ2000 5人気 的場文男 2:05.9 上り36.9映像
4 東京記念 大井 ダ2400 4人気 的場文男 2:34.3 上り38.0
3 サンタアニタトロフィー 大井 ダ1800 2人気 的場文男 1:52.8 上り37.7
4 JpnⅠ帝王賞 大井 ダ2000 4人気 的場文男 2:03.9 上り36.4
6 大井記念 大井 ダ2600 4人気 的場文男 2:46.0 上り37.1
4 OP’11ブリリアントカ 大井 ダ1800 4人気 的場文男 1:52.2 上り37.4
8 金盃 大井 ダ2000 2人気 的場文男 2:03.9 上り37.7
9 GI東京大賞典 大井 ダ2000 8人気 的場文男 2:03.5 上り39.6
2 勝島王冠 大井 ダ1800 1人気 的場文男 1:51.7 上り37.3
5 JpnⅠJBCクラシック 船橋 ダ1800 9人気 的場文男 1:52.4 上り39.7映像
5 JpnⅡ日本テレビ盃 船橋 ダ1800 5人気 的場文男 1:50.9 上り37.6
2 サンタアニタトロフィー 大井 ダ1600 1人気 的場文男 1:38.7 上り38.3
3 JpnⅠ帝王賞 大井 ダ2000 9人気 的場文男 2:03.9 上り38.0
2 大井記念 大井 ダ2600 3人気 的場文男 2:47.7 上り37.8
6 JpnⅠ川崎記念 川崎 ダ2100 6人気 的場文男 2:13.7 上り37.1
6 GI東京大賞典 大井 ダ2000 8人気 的場文男 2:06.6 上り37.2
11 GIジャパンカップダート 阪神 ダ1800 15人気 的場文男 1:51.3 上り37.7映像
12 JpnⅠマイルチャンピオンシップ 盛岡 ダ1600 4人気 岩田康誠 1:41.0
3 JpnⅡ日本テレビ盃 船橋 ダ1800 3人気 的場文男 1:51.3 上り38.1
3 JpnⅠ帝王賞 大井 ダ2000 4人気 的場文男 2:05.2 上り37.4
4 JpnⅠかしわ記念 船橋 ダ1600 5人気 的場文男 1:37.0 上り36.4
6 JpnⅠ川崎記念 川崎 ダ2100 5人気 的場文男 2:14.8 上り37.6
6 GI東京大賞典 大井 ダ2000 5人気 的場文男 2:05.6 上り36.2
11 GIジャパンカップダート 阪神 ダ1800 13人気 内田博幸 1:50.8 上り37.2映像
6 JpnⅠJBCクラシック 園田 ダ1870 4人気 内田博幸 1:58.4 上り37.8映像
1 JpnⅡ日本テレビ盃 船橋 ダ1800 2人気 的場文男 1:47.8 上り37.4
2 JpnⅠ帝王賞 大井 ダ2000 3人気 的場文男 2:04.9 上り36.9
1 JpnⅠかしわ記念 船橋 ダ1600 3人気 的場文男 1:37.6 上り37.2
12 GIIIマーチS 中山 ダ1800 9人気 田中勝春 1:54.1 上り39.9
2 JpnⅡダイオライト記念 船橋 ダ2400 2人気 的場文男 2:35.6 上り39.1
6 GIII平安S 京都 ダ1800 11人気 藤田伸二 1:51.3 上り36.7
4 JpnⅡ名古屋グランプリ 名古屋 ダ2500 3人気 岩田康誠 2:41.9 上り37.5
5 OP師走S 中山 ダ1800 7人気 石神深一 1:52.3 上り37.8
14 GIジャパンカップダート 東京 ダ2100 14人気 柴田善臣 2:12.0 上り40.7映像
16 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 16人気 柴田善臣 2:01.8 上り36.8映像
1 JpnⅠ帝王賞 大井 ダ2000 5人気 的場文男 2:04.3 上り37.3
3 OPブリリアントS 東京 ダ2100 3人気 武豊 2:10.8 上り36.9
4 JpnⅠかしわ記念 船橋 ダ1600 5人気 武豊 1:38.2 上り36.9
8 OPエイプリルS 中山 芝2000 7人気 後藤浩輝 2:00.9 上り35.5
1 金盃 大井 ダ2000 2人気 内田博幸 2:07.3 上り37.8
7 川崎記念 川崎 ダ2100 4人気 的場文男 2:15.5 上り38.7
6 GI東京大賞典 大井 ダ2000 5人気 的場文男 2:04.6 上り38.2
3 JBCクラシック 川崎 ダ2100 7人気 的場文男 2:16.5 上り39.5映像
2 東京記念 大井 ダ2400 1人気 的場文男 2:34.9 上り39.9
1 サンタアニタトロフィー 大井 ダ1600 3人気 的場文男 1:38.7 上り37.3
5 帝王賞 大井 ダ2000 7人気 的場文男 2:04.1 上り37.1
2 大井記念 大井 ダ2600 3人気 的場文男 2:47.3 上り37.8
8 OP’06グリーンC 大井 ダ2000 1人気 的場文男 2:08.1 上り38.2
9 金盃 大井 ダ2000 1人気 的場文男 2:06.1 上り38.2
7 GI東京大賞典 大井 ダ2000 8人気 的場文男 2:04.8 上り37.2
1 OP’05勝島賞 大井 ダ1800 1人気 的場文男 1:53.7 上り37.8
1 東京記念 大井 ダ2400 1人気 的場文男 2:33.3 上り38.3
1 黒潮盃 大井 ダ1800 3人気 的場文男 1:52.7 上り38.4
3 ジャパンダートダービー 大井 ダ2000 9人気 的場文男 2:06.0 上り38.4
4 東京ダービー 大井 ダ2000 4人気 的場文男 2:06.4 上り38.1
5 羽田盃 大井 ダ1800 6人気 的場文男 1:55.1 上り37.6
4 ライラック特別 大井 ダ1800 4人気 山田信大 1:56.2 上り38.5
3 もくれん特別 大井 ダ1600 2人気 石崎隆之 1:41.7 上り39.9
3 フォーチュネイトパン 大井 ダ1800 1人気 的場文男 1:56.5 上り38.6
2 フォーチュネイト水仙 大井 ダ1200 1人気 的場文男 1:13.5 上り38.3
2 白鳥特別 大井 ダ1600 2人気 的場文男 1:42.5 上り39.2
2 エリカ特別 大井 ダ1600 4人気 的場文男 1:42.6 上り39.2
1 2歳 新馬 大井 ダ1000 2人気 的場文男 1:01.4 上り37.0

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ボンネビルレコードの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
アサティスAssatisTopsiderNorthern Dancer
Drumtop
Secret AssetGraustark
Numbered Account
ダイワスタンマルゼンスキーMaruzenskyNijinsky
シルShill
ダイワベルテスコボーイTesco Boy
エリモホープ
STORY

旅程 — この馬の物語

2002年生まれの鹿毛の牡馬。父アサティス、母ダイワスタン。

塩の平原から来た名前

2002年3月12日、北海道門別町の浜本幸雄の牧場で、鹿毛の牡馬が生まれた。父はアサティス、母はダイワスタン。馬主は塩田清。 名前は、アメリカ・ユタ州のボンネビル・スピードウェイから取られた。塩が干上がって固まった真っ白な平原に引かれた、直線だけの舞台である。人はそこで、百年ちかく地上最速の記録を追い続けてきた。その地名に「記録」を継ぎ足したのが、この馬の名になる。 父アサティスはアメリカで生まれ、イギリスで調教を受けた芝の馬だった。イタリアのジョッキークラブ大賞を勝ち、イギリスのハードウィックステークスを連覇している。1989年のジャパンカップに招かれて12着、翌年の凱旋門賞12着を最後に引退し、そのまま日本へ渡って種牡馬になった。自分は芝しか走らなかったのに、産駒はダートに寄った。しかも、仕上がるのが遅い馬が多かった。 母ダイワスタンは1989年生まれの黒鹿毛。その父はマルゼンスキーで、さらにその母ダイワベルの父はテスコボーイ。浦河で仔を産みはじめ、やがて門別へ移った繁殖牝馬である。五年後、同じ配合でこの鹿毛の全妹が生まれている。 2004年10月16日、大井のダート1000メートル。2歳新馬に2番人気で出て、勝った。手綱を取っていたのは的場文男である。当時48歳。1980年代半ばから大井のリーディングを取り続け、その圧倒的な数字から「大井の帝王」と呼ばれていた。 その帝王には、どうしても勝てないレースがあった。

三冠は、こぼれた

暮れのエリカ特別と白鳥特別は続けて2着。年が明けても勝ち切れず、勝ち星は新馬戦の一つのままだった。 2005年、南関東の三歳三冠が始まる。羽田盃、東京ダービー、ジャパンダートダービー。中央のクラシックにあたる、大井を舞台にした三つのレースである。結果は5着、4着、3着だった。着順はひとつずつ上がったが、先頭では帰ってこない。的場文男は、この年も東京ダービーの勝ち馬になれなかった。 夏を境に馬が変わる。8月16日の黒潮盃で、新馬戦から十か月ぶりの二つ目を挙げた。10月の東京記念は古馬相手の2400メートルを1番人気で押し切り、12月の勝島賞も続けて勝つ。三連勝である。 年末の東京大賞典は7着。三歳の一年は、走るたびに評価が上がっていく一年だった。

大井を出る

四歳になった2006年は、その評価に潰された年になる。2月の金盃は1番人気で9着。5月のグリーンカップも1番人気で8着。人気を背負うと勝てない、と言われてもおかしくない春だった。 それでも夏には戻ってきた。8月のサンタアニタトロフィーを勝ち、10月の東京記念は1番人気で2着。11月、川崎のJBCクラシックでは3着に走っている。年末の東京大賞典は6着。 翌2007年2月21日、大井の金盃。この日は内田博幸が乗り、勝った。そしてそれが、大井所属としての最後の一戦になる。 馬は移籍した。大井の庄子連兵厩舎から、美浦の堀井雅広厩舎へ。南関東の生え抜きが、中央競馬の所属馬になったのである。 4月8日、中山のエイプリルステークス。移籍初戦は初めての芝で、8頭立ての8着だった。5月2日の船橋・かしわ記念は武豊が乗って4着、勝ったのはブルーコンコルド。6月9日、東京のブリリアントステークスも武豊で3着。 その間の5月13日に、父アサティスが死んでいる。22歳だった。

二〇〇七年六月二十七日、大井二〇〇〇メートル

6月27日の帝王賞に向けて、堀井雅広は鞍上を大井の的場文男に戻した。中央の所属馬が、地方の騎手を乗せて地方のJpnIに出る。移籍してからの三戦は別の手に委ねられていたから、この馬にとっては久しぶりに元の相棒が背に戻ってきたことになる。 晴れ。ダートは良。単勝の支持は五番手だった。人気を集めていたのは、交流のダートを勝ちまわっていたブルーコンコルド。春にこの馬に乗っていた武豊は、この日はシーキングザダイヤの手綱を取っている。 ゲートが開いても、的場は急がなかった。向正面に入るころ、鹿毛は六番手にいる。 三コーナー。外に出さない。 四コーナーも同じだった。ラチ沿いをそのまま回っていく。内は距離をひとつも損しない代わりに、前が開かなければ何もできない。開かないまま終わる可能性を抱えたまま、鹿毛はそこにいた。 開いた。 残り百メートル。先に抜け出していたブルーコンコルドの脇へ、鹿毛が並びかける。並んでいる時間は長くなかった。ゴール板を過ぎたとき、差は一馬身半になっている。 中央と地方の垣根を外して行うダートグレード競走で、この馬が勝ったのは初めてだった。的場文男にとっては三度目の帝王賞である。ハシルショウグン、コンサートボーイ、そしてこの鹿毛。 父が死んでから、まだひと月半しか経っていない。芝しか走らなかった馬の、ダートに寄った産駒。遅れて仕上がるという父系の癖のとおりに、五歳の夏、その血は日本の砂のいちばん高いところに立った。

秋、府中で

帝王賞のあとは休養に入った。秋は日本テレビ盃から始める予定だったが、馬インフルエンザの流行でそのレースが交流競走ではなくなり、中央所属のこの馬は出られなくなる。陣営は天皇賞(秋)とJBCクラシックの両方に登録し、JBCが補欠に回ったため、10月28日、府中の芝2000メートルへ向かった。 16頭立ての16番人気。道中でマツリダゴッホと接触する不利もあり、見せ場のないまま大きく離された16着だった。芝の速さには、どうやっても手が届かない。 続くジャパンカップダートは東京のダート2100メートルで14着。二戦とも、この馬の競馬にはならなかった。 それでも12月の師走ステークスで5着、暮れの名古屋グランプリで4着。年をまたぐころには、走りは戻っていた。

船橋で、二度

2008年は平安ステークスの6着から始まった。3月5日、船橋のダイオライト記念で的場が戻り、後方から追い上げてフリオーソの2着。3月30日の中山・マーチステークスは12着に大敗する。 5月5日、船橋のかしわ記念。中団から向正面で動き、直線は外へ持ち出した。人気を分け合っていたワイルドワンダーとブルーコンコルドを、まとめて外から差し切る。JpnIの二つ目だった。 6月の帝王賞は連覇を狙ったが、またしてもフリオーソを捉えられずに2着。 9月23日、また船橋である。不良馬場の日本テレビ盃は、前半から前が異様に速いラップを刻んだ。的場は中団で我慢し、四コーナーで先頭に立ったフリオーソを直線で捉える。1分47秒8。船橋のダート1800メートルのコースレコードを二十一年ぶりに書き換え、同時に、この距離の日本レコードになった。それまでの記録は、1997年に京都でプレミアムサンダーが出した1分48秒4である。春に先着を許した相手へ、半年で返した。 11月3日のJBCクラシックは園田だった。兵庫県競馬組合の規定で的場が騎乗できず、内田博幸に替わって6着。12月のジャパンカップダートも内田で11着、年末の東京大賞典は的場に戻って6着だった。

勝てない三年と、帰る場所

2009年は、一度も勝てなかった。川崎記念6着、かしわ記念4着、帝王賞3着、日本テレビ盃3着。10月の南部杯は岩田康誠が乗って12着。12月のジャパンカップダートは11着で、この週、的場はワールドスーパージョッキーズシリーズの地方代表として阪神に来ていた。遠征の合間に、元の相棒の背へ戻った一戦である。 2010年1月27日の川崎記念で6着。その翌日、中央競馬の競走馬登録を抹消することが発表され、29日付で馬は大井へ帰った。三年ぶりに、南関東の所属馬へ戻ったことになる。 帰ってからも、勝ち星はなかった。大井記念2着、帝王賞3着、サンタアニタトロフィーはアタマ差の2着、JBCクラシック5着、勝島王冠2着。あと少しが、いつまでも続く。2011年は帝王賞4着、東京記念4着、JBCクラシック7着。2012年に入ると、かしわ記念8着、大井記念4着と着順が伸びなくなっていった。 帝王賞には2006年から2011年まで六年続けて出走し、そのすべてで五着以内に入っている。しかも六回の着順は、一着から五着までがすべてそろった。勝ち、惜敗、健闘、取りこぼし。大井の六月に起こりうることを、この馬は一頭で並べてみせたことになる。 2012年12月29日、東京大賞典9着。的場文男を背に大井の2000メートルを走り終えて、十歳の暮れに引退した。

帝王賞の日に、先頭を歩く

引退後も、この馬は大井に残った。誘導馬になるための調教を受け、2013年6月26日、帝王賞の当日にデビューする。以後九年、本馬場入場の先頭を歩き続けた。 2022年6月29日、やはり帝王賞の当日に役目を降りる。最終日の最終競走には「たくさんの感動をありがとう! ボンネビルレコード賞」という名が付き、そのレースと帝王賞を含む後半四競走を先導して、九年が終わった。九月、北海道日高町の加藤ステーブルへ移り、翌年度から引退名馬繋養展示事業の助成を受ける功労馬になっている。 一方、的場文男には最後まで解けない問題が残っていた。東京ダービーである。2015年、九度目の二着を喫した直後、砂をかぶったままの彼は、勝てないレースの話をしながら勝てたレースの名を三つ挙げた。ハシルショウグン、コンサートボーイ、ボンネビルレコード。あんなに勝つのが難しいレースなのに、と言い添えて、こう続けている。「ダービーは宿題だね。俺の人生の宿題」[^1] 宿題は、提出されないままになった。2025年3月31日、的場は51年5か月の騎手生活を終える。東京ダービーは39回騎乗して2着10回。先頭でゴール板を過ぎたことは、ついに一度もなかった。 その最後の週、大井は最終競走に五つの名を掲げた。ナイキジャガー賞、カウンテスアップ賞、ハシルショウグン賞、コンサートボーイ賞、ボンネビルレコード賞。半世紀を超える騎乗が五つの名前に畳まれたとき、門別生まれの鹿毛はそこにいた。五つのうち三つは、帝王賞を勝った馬である。大井の帝王が先頭でゴールできたのは、ダービーではなく帝王賞のほうだった。 名前は、記録のためだけに均された塩の直線から取られていた。けれど、この馬が最後に受け持ったのは時計を計られない仕事だった。帝王賞の日の大井で、鹿毛は本馬場入場の先頭を歩いた。うしろの馬たちがゲートへ向かえば、静かに退がる。それを九年。追われることも、追うこともなく、ただ先頭にいた。

出典:JBISサーチ コラム「南関フリーウェイ」第123回 大井の帝王・的場文男騎手引退、2025年2月26日配信、https://enjoy.jbis.or.jp/column/abe/2025/013154 、閲覧日:2026年8月2日。

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