名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

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ブローザホーンのイメージビジュアル
ブローザホーンBlow the Horn
Blow the Horn

ブローザホーン

通算成績26戦7勝

獲得賞金5248万円

生年月日 2019.05.10(令和元年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ブローザホーンの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
8 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 5人気 菅原明良 3:15.9 上り37.0映像
3 GII阪神大賞典 阪神 芝3000 5人気 菅原明良 3:04.4 上り35.5映像
12 GI有馬記念 中山 芝2500 11人気 菅原明良 2:33.1 上り35.7映像
12 GIジャパンカップ 東京 芝2400 10人気 菅原明良 2:26.6 上り33.8映像
11 GII京都大賞典 京都 芝2400 1人気 菅原明良 2:25.3 上り35.9映像
1 GI宝塚記念 京都 芝2200 3人気 菅原明良 2:12.0 上り34.0映像
2 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 5人気 菅原明良 3:14.5 上り34.6映像
3 GII阪神大賞典 阪神 芝3000 1人気 菅原明良 3:07.6 上り35.3映像
1 GII日経新春杯 京都 芝2400 1人気 菅原明良 2:23.7 上り35.8映像
GII京都大賞典 京都 芝2400 2人気 菅原明良 映像
1 L札幌日経OP 札幌 芝2600 1人気 岩田康誠 2:42.0 上り35.4
3 GIII函館記念 函館 芝2000 2人気 岩田康誠 2:01.8 上り35.6映像
1 烏丸S 京都 芝2200 1人気 岩田康誠 2:14.9 上り35.9
1 潮来特別 中山 芝2500 3人気 菅原明良 2:31.5 上り35.5
5 海の中道特別 小倉 芝2600 6人気 西村淳也 2:42.0 上り35.4
1 3歳以上1勝クラス 中山 芝2500 1人気 戸崎圭太 2:38.6 上り35.3
2 3歳以上1勝クラス 福島 芝2000 8人気 角田大和 2:01.7 上り35.8
1 3歳未勝利 函館 芝2000 3人気 横山武史 2:02.5 上り34.9
3 3歳未勝利 函館 芝2000 2人気 横山武史 2:01.5 上り35.6
8 3歳未勝利 福島 芝2000 2人気 黛弘人 2:02.0 上り36.0
4 3歳未勝利 中山 芝2000 7人気 田辺裕信 2:02.9 上り34.9
5 3歳未勝利 中山 芝2000 4人気 田辺裕信 2:01.7 上り36.1
3 3歳未勝利 中山 芝2000 5人気 大野拓弥 2:01.8 上り36.4
9 3歳未勝利 中山 芝1600 5人気 戸崎圭太 1:35.6 上り35.7
2 2歳未勝利 中山 芝1600 6人気 田辺裕信 1:37.0 上り35.3
4 2歳新馬 東京 芝1600 4人気 戸崎圭太 1:37.3 上り35.2

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ブローザホーンの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
エピファネイアEpiphaneiaシンボリクリスエスSymboli Kris SKris S.
Tee Kay
シーザリオCesarioスペシャルウィークSpecial Week
キロフプリミエールKirov Premiere
オートクレールデュランダルDurandalサンデーサイレンスSunday Silence
サワヤカプリンセス
ジョイアサーティンフォーティナイナーForty Niner
アサーテインAssertaine
STORY

旅程 — この馬の物語

2019年生まれの鹿毛の牡馬。父エピファネイア、母オートクレール。主な勝ち鞍は宝塚記念・日経新春杯。

剣と角笛 ― 名の由来

「その角笛を吹け」。英名 Blow the Horn には、そんな命令形が宿る。母の名はオートクレール――中世フランスの武勲詩『ロランの歌』で、勇者ロランの盟友オリヴィエが佩いた伝説の剣の名である。その物語の山場で、伏兵に追い詰められたロランは、象牙の角笛オリファントを渾身の力で吹き鳴らす。剣を母に持つ仔へ、角笛を吹けと名づける。血と名の由来は、ひとつの古い戦の詩のなかで静かに結ばれていた。 2019年5月10日、北海道・岡田スタッドに生まれた鹿毛の牡馬。父はエピファネイア、その父はシンボリクリスエス、父の母はオークス馬シーザリオ。そして母オートクレールの父はデュランダル――奇しくもこれも、ロランが振るった名剣の名だ。ロランの剣、オリヴィエの剣、そして角笛。血統表が、そのまま一篇の叙事詩の武具になっている。母系をさかのぼれば、三代母アサーテインの半妹に、アメリカでGIを7勝した名牝ゴーフォアワンドがいた。馬主は岡田牧雄。剣の血を継ぎ、角笛の名を負ったこの馬の旅は、しかし、その角笛が高らかに鳴るまでに、ずいぶんと長い夜を必要とした。

長い夜 ― 九戦目の勝ち上がり

デビューは2021年11月27日、東京の芝1600m。鞍上は戸崎圭太。4番人気で4着と、悪くはない滑り出しだった。だが、そこから勝利の二文字が遠かった。2着、9着、3着、5着、4着――中山や福島の未勝利戦を回っても、あと一歩が届かない。 未勝利を抜け出したのは、デビューから九戦目のことだった。2022年6月25日、函館の芝2000m。横山武史を背に、ようやく先頭でゴールする。美浦・中野栄治厩舎に預けられたこの馬は、距離の要る条件戦で少しずつ地力を蓄えていった。同年暮れの中山では戸崎を鞍上に1勝クラスを制し、年を越えて、舞台はゆっくりと上がり始める。

菅原明良、そして心房細動

2023年3月、中山の潮来特別。手綱を取ったのは菅原明良だった。3番人気に応えて危なげなく抜け出し、二人の縁がここで結ばれる。もっともこの年の夏場は岩田康誠が鞍上を務め、京都で烏丸ステークス、札幌で日経オープンを勝ち、函館記念では3着に食い込んで、長距離のオープンでも通用することを示した。馬は着実に格を上げていった。 菅原が手綱に戻った2023年10月の京都大賞典、2番人気。だが、上り坂の途中に落とし穴が待っていた。レースの最中に心房細動を発症し、競走中止に終わる。心臓の異変は、ときに命に関わる。結果欄に着順は残らず、ただ「中」の一字が刻まれた。多くの馬が歩みを止めかねない試練を越えて、この鹿毛はターフへ戻ってくる。

日経新春杯 ― 二つの厩舎

復帰初戦が、そのまま最高の答えになった。2024年1月14日、京都の日経新春杯。1番人気に推されたブローザホーンは、菅原明良とともに重賞のタイトルを初めて手にする。心臓の異変から三か月、馬は何事もなかったように強くなって戻ってきた。そしてこの一勝は、長く手塩にかけた中野栄治にとって、定年を前にした最後の重賞制覇でもあった。 同年3月、中野の勇退にともない、馬は栗東・吉岡辰弥厩舎へと移る。厩舎は替わっても、上り調子は途切れなかった。阪神大賞典は1番人気で3着、続く天皇賞(春)では京都の3200mを舞台に、勝ったテーオーロイヤルにあと一歩及ばず2着。長丁場でこそ味の出る馬は、GIの大舞台で確かに足りていた。あと半歩――その半歩を、次の初夏に埋めることになる。

雨の京都、大外一気 ― 三重奏

2024年の宝塚記念は、特別な一年だった。阪神競馬場の改修により、18年ぶりに京都競馬場で施行される。当日の淀は雨に濡れ、馬場は重。ファン投票では24位と地味な立場ながら、単勝は3番人気に支持された。 ゲートが開くと、ブローザホーンは後方に控えた。3コーナーから徐々に進出し、4コーナーを大外へ。荒れた馬場を苦にせず、菅原の追う手に応えて豪快に伸び、7番人気のソールオリエンスを差し切る。デビュー6年目、GI挑戦23度目の若手が、初めてのビッグタイトルを掴んだ瞬間だった。2001年生まれの菅原は、21世紀生まれの騎手として初めてGIを制した。「4コーナーを回っても持っていられるくらい余裕があって、追ったら伸びる自信がありました」[^1]。菅原の声には確信だけがあり、そのうえで、まだ学ぶことは多い、この馬とともに成長していきたい、とも語った。 勝ったのは馬だけではない。管理する吉岡辰弥調教師も、JRA・GIは10回目の挑戦での初制覇だった。京都を地元とする師にとって、宝塚記念がその一年だけ京都で行われ、そこで勝つ巡り合わせは、できすぎた贈り物だったろう。馬も、騎手も、調教師も初のGI。雨の淀に、三つの初めてが重なった。長い夜のすえに、角笛がようやく高らかに鳴った。

出典:デイリースポーツ「【宝塚記念】ブローザホーンG1初制覇!雨と馬場全て味方に突き抜けた 菅原明良&吉岡師もG1初Vで歓喜の三重奏」2024年6月24日配信、https://www.daily.co.jp/umaya/news/2024/06/24/0017804071.shtml、閲覧日:2026年7月18日。

角笛の残響 ― 馬事公苑へ

頂の後には、静かな下り坂が続いた。秋の京都大賞典は1番人気で11着、ジャパンカップ12着、暮れの有馬記念も12着。年が明けても、2025年の阪神大賞典3着、天皇賞(春)8着。宝塚記念で見せた大外一気の切れは、少しずつ影をひそめていった。 その天皇賞が、結果として最後の一戦になった。2025年5月に右前脚の繋靭帯炎が判明し、長い休養に入る。復帰を期していた矢先の2026年2月、同じ患部の再発が伝えられ、3月、現役引退が発表された。26戦7勝。GIは、あの雨の宝塚記念ただ一つ。 いま、ブローザホーンは東京・世田谷の馬事公苑で乗馬としての日々を送っている。剣の血を継ぎ、角笛の名を負った馬が、その角笛を高らかに吹いたのは、生涯にただ一度、雨の淀でのことだった。物語の英雄の角笛がそうであったように――一度きりだからこそ、その一吹きは長く響く。淀に轟いたあの末脚を、記録は確かに書き留めている。

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