名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

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ビッグロマンスのイメージビジュアル
ビッグロマンスBig Romance
Big Romance

ビッグロマンス

通算成績12戦3勝

獲得賞金5,504万円

生年月日 2008.03.27(平成20年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ビッグロマンスの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
6 宮古秋まつりレースA 水沢 ダ1800 5人気 山本政聡 1:56.4 上り38.5
9 安達太良S 福島 ダ1700 11人気 武士沢友治 1:46.8 上り39.1
15 OP師走S 中山 ダ1800 14人気 田中勝春 1:54.8 上り38.5
14 GIII東京中日S杯武蔵野S 東京 ダ1600 14人気 田中勝春 1:38.1 上り38.0
13 GIIIユニコーンS 東京 ダ1600 5人気 田中勝春 1:38.4 上り38.0
17 GI皐月賞 東京 芝2000 18人気 北村宏司 2:04.1 上り38.1映像
11 GIII共同通信杯 東京 芝1800 8人気 田中勝春 1:49.6 上り35.3
1 JpnⅠ全日本2歳優駿 川崎 ダ1600 3人気 田中勝春 1:41.2 上り37.9
2 JpnⅢ北海道2歳優駿 門別 ダ1800 2人気 蛯名正義 1:55.4 上り37.9
1 プラタナス賞 東京 ダ1400 2人気 田中勝春 1:26.9 上り37.0
1 2歳未勝利 中山 ダ1800 1人気 田中勝春 1:57.0 上り39.0
5 2歳新馬 新潟 芝1600 3人気 田中勝春 1:37.8 上り34.2

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ビッグロマンスの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
グラスワンダーGrass WonderSilver HawkRoberto
Gris Vitesse
AmerifloraDanzig
Graceful Touch
グリーンヒルマックダンシングブレーヴDancing BraveLyphard
Navajo Princess
マックスフリートダンサーズイメージ
ヒカリホマレ
STORY

旅程 — この馬の物語

2008年生まれの黒鹿毛の牡馬。父グラスワンダー、母グリーンヒルマック。

新冠のヒカル牧場

2008年3月27日、北海道新冠町のヒカル牧場で黒鹿毛の牡馬が生まれた。父はグラスワンダー、母はグリーンヒルマック。 父は1995年にアメリカで生まれた栗毛である。1997年の朝日杯3歳ステークスをレコードで制し、当時のJRA所属2歳馬として史上最高のレーティングを与えられた。骨折と休養を繰り返しながら有馬記念を連覇し、宝塚記念を挟んでグランプリを三つ続けて勝っている。通算15戦9勝。二歳の暮れに、いちばん強い評価を受けた馬だった。 母グリーンヒルマックは1999年生まれの鹿毛で、父はダンシングブレーヴ。その母マックスフリートは1987年に同じヒカル牧場で生まれた芦毛である。笠松に入り、23戦15勝。1990年に東海菊花賞、岐阜王冠賞、東海ゴールドカップと東海の重賞を勝ち、東海ダービーでは2着に入った。その仔にミラクルオペラがいる。母の半兄――この黒鹿毛から見れば伯父にあたる芦毛で、2001年にマーキュリーカップと白山大賞典を勝ち、同じ年のジャパンカップダートではクロフネがレコードで駆け抜けた後ろで3着に入っている。地方のダート交流重賞で走る血が、母のすぐ隣にあった。 グリーンヒルマックはこの仔の4年前に、ステイゴールドとの間にサンライズマックスを産んでいる。半兄は2007年の中日新聞杯、2008年のエプソムカップ、2009年の小倉大賞典と重賞を三つ勝ち、30戦6勝で2億3513万円を稼いだ。 馬主は西村専次。1945年に岩手県平泉町で生まれ、1961年に中学を出ると集団就職で上京して金網の会社に入り、1968年に江戸川区小岩で独立した。会社が大きくなると、故郷の岩手にも工場と支店を置いている。冠名は「オウシュウ」「ガッサン」「グリーンヒル」――母グリーンヒルマックの頭にあるのは、その三つ目である。アメリカにも所有馬がおり、2006年12月にはロマンス・イズ・ダイアンがハリウッドパークの2歳GI、ハリウッドスターレットステークスを勝った。 2010年8月28日、新潟の芝1600メートル、2歳新馬。美浦・河野通文厩舎の所属で、鞍上は田中勝春。14頭立ての3番人気で5着だった。勝ったのは12番人気のフレンドミー。逃げて2着に粘った1番人気のスノードラゴンは、4年後のスプリンターズステークスを勝つことになる。

砂に替える

9月11日、中山のダート1800メートル、2歳未勝利。1番人気に応え、2着ビービーアックスに0.6秒の差をつけて2戦目で勝ち上がった。 10月9日、東京のダート1400メートル、プラタナス賞。単勝1.7倍のアルゴリズムが断然の人気で、ビッグロマンスは2番人気だった。中団の後ろから運び、直線でいったん内へ入れ、そこからもう一度外へ持ち出して差し切る。4分の3馬身差の2着はオヤシオ、断然の1番人気は6着に沈んだ。1分26秒9。芝で5着だった馬は、砂に替えて二つ続けて勝った。 11月4日、門別。北海道2歳優駿、JpnIII。ダートグレード初挑戦で、鞍上は蛯名正義に替わった。稍重の1800メートルを2番人気で進んだが、直線で内から伸びてきた地元のカネマサコンコルドに差し切られ、0.6秒差の2着。差した側の馬は、この年のNARグランプリ2歳最優秀馬に選ばれる。 初めての重賞で、この馬は差される側にいた。

十二月十五日、川崎

全日本2歳優駿は1950年に「全日本三才優駿」の名で始まっている。1988年に全日本3歳優駿、2001年に全日本2歳優駿と名を変えた。現存する地方競馬の重賞では、いちばん歴史が長い。 第61回は2010年12月15日、川崎のダート1600メートル。馬場は不良で、中央馬5頭を含む13頭が集まった。ビッグロマンスは3番人気、単勝6.2倍。相手はリアライズノユメ――エーデルワイス賞をレコードで勝ち、兵庫ジュニアグランプリも勝って重賞を二つ続けていた牝馬で、鞍上は福永だった。 田中勝春は前半を5番手で運び、3コーナーで先団に取り付いた。直線を向いてリアライズノユメを捉え、1馬身半抜け出す。1分41秒2、1着賞金3500万円。3着は浦和のキスミープリンス。門別で自分を差し切った馬も同じゲートにいたが、先にゴール板を過ぎたのはビッグロマンスだった。 うまく前に行けたので終始余裕を持って乗れた、と田中は振り返り、しまいは伸びる馬だから差されたらそれまでだと思っていた、と付け加えている。この競走を勝つのは、彼にとって三度目だった。1998年のアドマイヤマンボ、2005年のグレイスティアラ、そしてこの黒鹿毛。河野通文は、1コーナーから2コーナーを回るあたりで行けると思った、と笑い、こう続けた。「まだまだ成長するよ」[^1] 四日後、中山の朝日杯フューチュリティステークスをグランプリボスが勝ち、JRA賞最優秀2歳牡馬にはそちらが選ばれた。同じ師走に、芝と砂で二歳の頂点が別々に決まっている。 この日までの獲得賞金は5504万3000円。以後、この数字はひとつも動かない。

出典:スポーツニッポン「【全日本2歳優駿】中央馬ビッグロマンス2歳砂王!」2010年12月16日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2010/12/16/kiji/K20101216Z00001740.html 、閲覧日:2026年7月30日。

二〇一一年

3歳の初戦は2月13日、東京の共同通信杯。ふたたび芝の1800メートルで、8番人気の11着。勝ったナカヤマナイトから1.1秒差だった。 3月11日、東北地方太平洋沖地震。震災と原子力発電所の事故の影響で、皐月賞は施行日を一週間遅らせ、中山ではなく東京競馬場で行われることになった。 4月24日、東京の芝2000メートル。18頭立ての18番人気、単勝180.1倍。鞍上は北村宏司に替わった。17着、勝ち馬から3秒5。勝ったのはオルフェーヴルで、この馬はこの年、三冠を獲る。 6月4日、砂に戻ってユニコーンステークス。5番人気で13着だった。 9月26日、河野通文の調教師免許が取り消される。1991年に開業した厩舎はその日で終わり、ビッグロマンスは同じ美浦の小笠倫弘厩舎へ移った。 11月13日、武蔵野ステークス14着。12月24日、師走ステークス15着。この年は5戦して、賞金は1円も増えなかった。田中勝春は、皐月賞をのぞく4戦の手綱を取り続けている。

宮古秋まつりレース

2012年6月23日、福島のダート1700メートル、安達太良ステークス。鞍上は武士沢友治で、11番人気の9着。福島競馬場は前年の震災で施設が甚大な被害を受け、一年にわたって開催を止めていた。芝コースの一部張り替えとダートの砂の入れ替え、施設の復旧を終えて、この年の4月7日に「福島復興祈念競馬」として開催を再開したばかりだった。これが中央での最後の一戦になる。 7月13日、中央の競走馬登録を抹消。移った先は岩手だった。盛岡・櫻田浩三厩舎。馬主が生まれ、のちに工場を建てた土地である。岩手競馬もまた前年に被災していた。水沢の本場開催は当面中止となって5月の盛岡から再開し、沿岸の場外発売所テレトラック宮古は6月に発売を再開している。 2013年9月1日、水沢のダート1800メートル、不良。10頭立ての5番人気で、鞍上は山本政聡。1分56秒4で6着、勝ったのはカミノヌヴォーだった。 レース名は、宮古秋まつりレース。宮古は三陸の港町で、九月の半ばに船山車が街を練る祭りがある。 岩手に来て一年二か月、走ったのはこの一度きりだった。10月14日、地方競馬の登録も抹消される。12戦3勝。

走った記録

獲得賞金5504万3000円は、二歳の十二月十五日に出そろっていた。そのあとの三年、数字は一円も動いていない。 けれど数字が止まったことと、走ることをやめたことは同じではない。芝でデビューして砂で二つ勝ち、川崎でJpnIを獲り、震災の春に東京の皐月賞のゲートに入り、再開したばかりの福島を走り、最後は馬主の郷里で、港町の祭りの名を背にゲートへ入った。12という出走数は、賞金の欄よりずっと長い旅程を持っている。 競走をやめたあと、この馬は乗馬になった。日本馬術連盟の登録に、徳島県小松島市の徳島乗馬倶楽部を繋養地とする名がある。馬場馬術の競技会に出た記録も残っている。4歳上の半兄サンライズマックスも、2012年の春に競走をやめて乗馬になっていた。ヒカル牧場の兄弟は二頭とも、人を背に乗せる仕事へ移ったことになる。 父グラスワンダーは2025年8月8日に世を去った。30歳だった。産駒でGI・JpnIを勝ったのは5頭――ジャパンカップのスクリーンヒーロー、宝塚記念のアーネストリー、朝日杯フューチュリティステークスのセイウンワンダー、中山大障害と中山グランドジャンプのマルカラスカル、そして砂の全日本2歳優駿を勝ったビッグロマンス。二歳の暮れに最も高く評価された父の血は、息子にも同じ季節に点った。 この馬に八度騎乗した田中勝春は、2023年限りで鞍を降り、2025年に調教師として厩舎を開いている。 不良の川崎を一分四十一秒二で駆けた日に、この馬の稼ぎは満ちた。それでも、そこで終わったわけではない。砂の二歳王者は、そのあと人を乗せる馬になった。

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