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アヴェンチュラ
通算成績7戦4勝
獲得賞金2億1,634万円
生年月日 2008.03.07(平成20年)毛色 鹿毛性 牝
全成績
主要戦績(抜粋)・新しい順| 年月日 | 着順 | レース | コース | 人気 | 騎手 | タイム | 上り3F | 映像 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2 | GIエリザベス女王杯 | 京都 芝2200 | 2人気 | 岩田康誠 | 2:11.6 | 上り34.2 | 映像 | |
| 1 | GI秋華賞 | 京都 芝2000 | 2人気 | 岩田康誠 | 1:58.2 | 上り34.9 | 映像 | |
| 1 | GIIIクイーンS | 札幌 芝1800 | 1人気 | 池添謙一 | 1:46.6 | 上り35.5 | — | |
| 1 | 漁火S | 函館 芝1800 | 2人気 | 池添謙一 | 1:47.9 | 上り35.4 | — | |
| 4 | GI阪神ジュベナイルフィリーズ | 阪神 芝1600 | 3人気 | 和田竜二 | 1:36.1 | 上り34.1 | 映像 | |
| 2 | GIII札幌2歳S | 札幌 芝1800 | 2人気 | 池添謙一 | 1:49.9 | 上り35.7 | — | |
| 1 | 2歳新馬 | 阪神 芝1600 | 2人気 | 福永祐一 | 1:35.7 | 上り34.4 | — |
血統
金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ| 父ジャングルポケットJungle Pocket | トニービンTony Bin | カンパラKampala |
| Severn Bridge | ||
| ダンスチャーマーDance Charmer | Nureyev | |
| Skillful Joy | ||
| 母アドマイヤサンデー | サンデーサイレンスSunday Silence | Halo |
| Wishing Well | ||
| ムーンインディゴMoon Indigo | El Gran Senor | |
| Madelia |
旅程 — この馬の物語
2008年生まれの鹿毛の牝馬。父ジャングルポケット、母アドマイヤサンデー。主な勝ち鞍は秋華賞・クイーンS。
早来の八番仔
母の名を、アドマイヤサンデーという。1995年2月20日、北海道早来町のノーザンファームで生まれた鹿毛の牝馬である。父はサンデーサイレンス、母は一度も走らなかったムーンインディゴ、その母マデリアはフランスで1000ギニーとオークスを勝った牝馬だった。 近藤利一の勝負服で栗東・作田誠二厩舎に入り、1998年の春に京都で未勝利戦と条件戦を続けて勝った。二連勝のまま向かった優駿牝馬は八番人気の十一着。秋は保津峡特別を勝ち、暮れの阪神牝馬特別でエガオヲミセテの二着に入ってオープン馬になっている。八戦三勝。翌春、安田記念を目指して調整されていた矢先に左前脚を骨折し、競走馬をやめた。 繁殖牝馬としての始まりも、明るくはなかった。初仔アドマイヤロイヤルは二戦目で予後不良になっている。 流れが変わったのは四番仔からだ。2004年生まれのフサイチホウオーは当歳のセレクトセールで一億円で落札され、新馬、東京スポーツ杯2歳ステークス、ラジオNIKKEI杯2歳ステークス、共同通信杯と無敗の四連勝を飾った。皐月賞は三着。単勝1.6倍の一番人気で臨んだ東京優駿は、ウオッカが牝馬として六十四年ぶりに勝ったその日の、七着だった。翌年生まれの五番仔トールポピーは阪神ジュベナイルフィリーズと優駿牝馬を勝ち、六番仔ナサニエルは全日本2歳優駿で二着に入る。七番仔ヴェラブランカは下級条件で引退したが、その仔ヴェラアズールが2022年の京都大賞典とジャパンカップを勝った。 2008年3月7日、その母が八番目に産んだのは鹿毛の牝馬だった。父は兄と姉と同じジャングルポケット。所有はキャロットファーム、預けられたのは栗東の角居勝彦厩舎で、担当する調教助手も姉と同じ前川和也だった。 名は、アヴェンチュラ。イタリア語で、冒険という意味である。
四番目の鹿毛
2010年6月20日、阪神の芝1600m。単勝3.7倍の二番人気に推された新馬は、福永祐一を背に中団から上がり三ハロン34秒4で伸び、三馬身半差をつけて勝った。同じレースには、ディープインパクト産駒として初めて出走したシュプリームギフトや、のちにニュージーランドトロフィーを勝つエイシンオスマンがいた。 二戦目が、いきなり重賞だった。10月2日、札幌2歳ステークス。鞍上は池添謙一。中団の後ろから伸びたが、オールアズワンに届かず二着。 12月12日、阪神ジュベナイルフィリーズ。三番人気。和田竜二に手綱が替わったこの日はスタートで出遅れ、後方に置かれた。流れは遅く、上がり34秒1を使っても四着までだった。決勝線を最初に過ぎた三頭——レーヴディソール、ホエールキャプチャ、ライステラス——はいずれも芦毛で、四番目に、鹿毛のこの馬がいた。 そのあとで、右前脚の第三手根骨が折れていることが分かった。 三歳の春は、走らないまま過ぎた。3月11日の地震で開催は組み替えられ、4月10日の桜花賞はマルセリーナが、5月22日の優駿牝馬はエリンコートが勝った。桜花賞の最有力と目されていたレーヴディソールも、一週前追い切りのあとに右前脚の骨折が判明して姿を消していた。同世代が二つの冠を配り終えるあいだ、この馬は牧場にいた。
体が二つ欲しい
復帰は、夏の北海道だった。 7月30日、函館の漁火ステークス。馬体は二十八キロ増えていた。池添が好位の四番手に付け、直線で先頭に立つと、シルクアーネストに二馬身半。二歳のころはトモが緩かったが芯がしっかりした、と池添は笑い、角居は、増えた分は成長だと言った。 8月14日、札幌のクイーンステークス。三歳で五十二キロ、相手は古馬である。単勝2.7倍の一番人気に推された。先行争いの激しい流れを好位で追走し、四コーナー手前で早くも手が動く。外から一気にまくってきたコスモネモシンに一度は前に出られ、そこから差し返した。クビ差。重賞初制覇だった。引き揚げてきた池添は馬上で苦しかったと声を上げ、相棒の首を何度も叩いている。 この男は、姉を知っていた。トールポピーの十四戦のうち十三戦に乗ったのが池添である。イライラするところ、頭が高いところが姉と似ている、と彼は言った。姉も担当していた前川助手は、この一族を、ずるいところがある血統と表現する。中間はあえて怒らせ、気を高くして送り出した。 ただ、彼にはもう一頭いた。阪神ジュベナイルフィリーズ二着、桜花賞二着、優駿牝馬三着——常にあと一歩で止まり続けてきたホエールキャプチャである。秋の最後の一冠へ、二頭とも向かう。 「うれしい悩みですけど、体が2つ欲しい」[^1]
出典:スポーツニッポン「【クイーンS】アヴェンチュラ、秋華賞へ“前進”」2011年8月15日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2011/08/15/kiji/K20110815001414110.html、閲覧日:2026年7月30日。
早仕掛け
10月16日、京都の芝2000m。稍重、十八頭。 一番人気はホエールキャプチャで、池添が乗った。アヴェンチュラは二番人気。桜花賞馬マルセリーナよりも、優駿牝馬を勝ったエリンコートよりも上の支持である。 手綱を取ったのは岩田康誠だった。この馬に乗るのは初めてで、追い切りにしか跨っていない。それでも成算はあった。夏の函館と札幌、この馬が走った二つのレースに、岩田は別の馬で乗っている。映像を見返し、三コーナーから四コーナーで少しズブいところがあると読んで、レース前に角居へ、少し早めに仕掛けたいと伝えていた。 メモリアルイヤーが飛ばし、前半1000mは58秒3。二枠四番から、岩田は三番手の内で折り合う。そして残り八百メートル、二番手以降の十七頭に乗るどの鞍上よりも早く追い出した。残り三百メートルで先頭。直線でフワッと気を抜きかけたが、キョウワジャンヌが迫るともうひと伸びした。 1分58秒2、一馬身四分の一差。さらに一馬身四分の一差の三着に、外から伸びたホエールキャプチャ。内の馬場が良いのは分かっていたが十二番枠では入れなかった、枠順と立ち回りの差だ、と池添は振り返っている。 引き揚げてきた鞍上を、角居は親指と人さし指で丸をつくって迎えた。 三年前の秋華賞も、岩田の日だった。2008年、彼はブラックエンブレムでこのレースを勝ち、その日に年間百勝へ到達している。同じ日、一番人気で十着に敗れたのがトールポピーだった。三年後、彼はまた秋華賞で年間百勝に届き、今度は妹の背にいた。 角居厩舎は2004年の菊花賞から数えて、八年続けてJRAのGIを勝ったことになる。そして同じ母から出た姉と妹が、そろってGI馬になった。 生産者——ノーザンファーム早来の場長は、この血統は三歳の春までだと思っていたけれど、そうではないところを見せてくれた、と喜んだ。管理する調教師の言葉は、もう少し先を向いていた。 「お姉ちゃんは途中で競馬が嫌いになってしまいましたが、アヴェンチュラにはずっと競馬が好きでいてほしいですね」[^1]
出典:スポーツナビ「アヴェンチュラ3歳新女王! 岩田も絶賛の良血開花=秋華賞」2011年10月16日配信、https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201110190002-spnavi、閲覧日:2026年7月30日。
世界の脚
11月13日、京都の芝2200m。エリザベス女王杯。 一番人気は前年の覇者スノーフェアリー。アヴェンチュラは二番人気で、三番人気には八か月ぶりに実戦へ戻ってきたレーヴディソールがいた。牝馬三冠を制したアパパネもそこにいる。 逃げたシンメイフジが五ハロン57秒5で飛ばした。岩田は好位の七番手で脚をため、直線で外へ持ち出す。残り百メートル、先頭はこの馬だった。 そこへ、中団にいた英国の牝馬が上がり三ハロン33秒8で、ホエールキャプチャとアパパネの間をこじ開けてきた。2分11秒6、クビ差。前年に続く連覇である。三着はアパパネ、レーヴディソールは十一着だった。 負けた鞍上の口を最初に突いたのは、悔しさではなかった。 「ゴール前で振り切ったと思ったら“えーっ!”って。つえーなあー!」[^1] 世界が相手なら、もう少し鍛えなければいけないのかもしれない——角居はそう言い、年内は休ませて翌年に備えるつもりだった。 二日後、日本中央競馬会が発表した。この馬は走りながら、両前脚の第三手根骨を折っていた。
出典:スポーツニッポン「【エ女王杯】アヴェンチュラ“えーっ!”2着惜敗」2011年11月14日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2011/11/14/kiji/K20111114002022750.html、閲覧日:2026年7月30日。
六月の、同じ牧場で
骨片を除去する手術を受け、ノーザンファーム早来で乗り込まれた。四歳になっても、まだ現役だった。 2012年1月6日、JRA賞が発表される。年度代表馬は三冠を勝ったオルフェーヴル。最優秀三歳牝馬の欄には、生涯で七回しか出走していない牝馬の名が入った。 だが調教のあとで歩様が乱れ、左前脚の第三中手骨の骨折が判明する。復帰までに相当な時間がかかると判断され、関係者の話し合いで引退が決まった。6月14日に馬主のクラブがそれを発表し、翌15日付で競走馬登録は抹消される。七戦四勝、獲得賞金二億一六三四万八〇〇〇円。 その一週間後、6月22日の未明、同じ安平のノーザンファームで、全姉トールポピーが腸捻転のため死んだ。七歳だった。繁殖牝馬として、キングカメハメハの牝馬を二頭残したところだった。ずっと競馬を好きでいてほしい、と調教師が妹に願ったあの秋から、八か月しか経っていない。 アヴェンチュラは、同じ牧場で繁殖牝馬になった。2015年の初仔デサフィアンテは母と同じ角居厩舎からデビューし、十三戦して勝てないまま繁殖に上がった。カイザーラインが一勝、サファルが一勝。ロードカナロアを父に持つトラヴォルジェンテは中央から園田へ移り、五十戦を超えて走った。2025年生まれの牝馬まで、記録は続いている。 母アドマイヤサンデーは2015年5月15日に死んだ。ハービンジャーの仔を産んで、一か月後のことである。二十歳だった。 七戦のうち四つを勝ち、二度二着になり、一度四着になった。勝ち星の三つは、七月の末から十月の半ばまで、二か月半のあいだに固まっている。冒険という名を負った牝馬の旅程は、それで全部だ。早めに動いて押し切った淀の二千メートルが、その真ん中にある。安平に戻ったその馬は、いま十八歳になった。
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