名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

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アジアエクスプレスのイメージビジュアル
アジアエクスプレスAsia Express
Asia Express

アジアエクスプレス

通算成績12戦4勝

獲得賞金17,633万円

生年月日 2011.02.09(平成23年)毛色 栗毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
アジアエクスプレスの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
15 OP福島民友カップ 福島 ダ1700 3人気 津村明秀 1:46.6 上り39.8
4 OPBSN賞 新潟 ダ1800 1人気 北村宏司 1:49.8 上り37.3
5 GIII平安S 京都 ダ1900 1人気 戸崎圭太 1:55.6 上り37.0映像
2 GIIIアンタレスS 阪神 ダ1800 1人気 戸崎圭太 1:49.7 上り37.5映像
2 名古屋大賞典 名古屋 ダ1900 1人気 戸崎圭太 2:00.9 上り38.3
1 GIIIレパードS 新潟 ダ1800 1人気 戸崎圭太 1:50.4 上り35.6
12 GIIIユニコーンS 東京 ダ1600 1人気 戸崎圭太 1:37.7 上り37.7
6 GI皐月賞 中山 芝2000 5人気 戸崎圭太 2:00.0 上り35.5映像
2 GIIフジTVスプリングS 中山 芝1800 1人気 戸崎圭太 1:48.6 上り35.1
1 GI朝日杯フューチュリティステークス 中山 芝1600 4人気 R.ムーア 1:34.7 上り35.3映像
1 オキザリス賞 東京 ダ1600 1人気 R.ムーア 1:37.9 上り37.6
1 2歳新馬 東京 ダ1400 1人気 U.リスポリ 1:26.5 上り36.9

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
アジアエクスプレスの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ヘニーヒューズHenny HughesヘネシーHennessyStorm Cat
Island Kitty
Meadow FlyerMeadowlake
Shortley
ランニングボブキャッツRunning StagCozzene
Fruhlingstag
BackatemNotebook
Deputy's Mistress
STORY

旅程 — この馬の物語

2011年生まれの栗毛の牡馬。父ヘニーヒューズ、母ランニングボブキャッツ。主な勝ち鞍は朝日フューチュリティ・レパードS。

残された方の一頭

2011年2月9日、アメリカ・フロリダ州のオカラスタッドに生まれた栗毛の牡馬。父ヘニーヒューズはアメリカでキングズビショップステークスとヴォスバーグステークスという二つのGIを制したスピード馬で、母ランニングボブキャッツは通算31戦9勝、芝とダートの双方で重賞を勝った牝馬だった。2013年2月、フロリダで開かれたOBSマーチセールでノーザンファームがこの2歳馬を23万ドル、当時のレートで約2200万円で購入し、馬は海を渡る。馬主となった馬場幸夫は、かつて南満州鉄道を走った特急「あじあ号」のように豪快でパワフルに走ってほしいという願いを込めて、アジアエクスプレスと名付けたという。 美浦・手塚貴久厩舎に入った経緯は、決して華々しいものではない。外国産馬が2頭あり、先に1頭が先輩調教師のもとへ行くことが決まって、残った方を任された——後年、手塚はそう振り返っている。だが実際に厩舎で見た印象は違った。体つきが良く、調教でもよく動く。最初からやれる器だと思った、と。

除外という行き違い

2013年11月3日、東京のダート1400m。ウンベルト・リスポリを背にした新馬戦は、直線で力強く伸びて2着オータムラヴに5馬身差の楽勝だった。同月23日のオキザリス賞では鞍上にライアン・ムーアを迎え、ダート1600mを7馬身差で圧勝する。2戦2勝、二つの勝利で後続を突き放した差は、合わせて12馬身。陣営が次に見据えたのは、12月18日に川崎で行われるダートの2歳王者決定戦、全日本2歳優駿だった。 ところが除外となり、出走がかなわない。手塚は仕方なく別の路線を考えた、と振り返っている。浮かんだのは、その3日前に中山の芝1600mで行われる朝日杯フューチュリティステークス。芝は一度も走ったことがなかった。背中を押したのは、2戦に乗ったムーアの言葉である。「ムーアが『芝でも大丈夫』と言うので、朝日杯に向かう事にしました」[^1]

出典:Number Web「仕方なく出したアジアエクスプレスで2013年朝日杯FSを制した手塚師 今年はドゥラモンドで挑む」2020年12月19日配信、https://number.bunshun.jp/articles/-/846275 、閲覧日:2026年7月29日。

初めての芝 ― 二〇一三年十二月十五日、中山

単勝8.7倍の4番人気。ダートしか知らない馬に、そこまでの支持は集まらなかった。ゲートが開くとアジアエクスプレスは中団の内で脚を溜め、前では牝馬のベルカントが逃げる。直線、ムーアは馬体を大外へ持ち出した。そこからの反応が違った。逃げるベルカントを捉えて先頭に立ち、追いすがるショウナンアチーヴを1馬身1/4突き放し、ウインフルブルームまでの後続を振り切ってゴール板を駆け抜ける。1分34秒7。3戦3勝、無敗のGI馬が生まれた。 1984年のグレード制導入以降、芝を一度も走らないまま芝のGIを勝った馬は、これが初めてだった。ムーアは「芝でもダートでも勝てるというのは本当に特別な馬です」[^1]と、この2歳馬に惚れ込んだ。芝とダートの両方で重賞を勝った母の資質が、そのまま息子に出たようでもある。手塚にとっては2011年のアルフレードに続く2度目の朝日杯であり、そして第65回のこの日が、中山競馬場で行われた最後の朝日杯となった。年末、アジアエクスプレスはJRA賞最優秀2歳牡馬に選ばれる。

出典:スポーツナビ「異能の怪物!アジアエクスプレス無敗V 名手ムーアも惚れた「本当に特別な馬」」2013年12月15日配信、https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201312150002-spnavi 、閲覧日:2026年7月29日。

芝の春、ダートの夏

3歳初戦のスプリングステークスから、手綱は戸崎圭太に託された。1番人気に支持され、中団から直線で脚を伸ばしたが、ロサギガンティアに届かず2着。皐月賞は5番人気。戸崎はウインフルブルームを見る2番手という積極的な位置で運んだものの、3着に粘ったその相手とは対照的に直線で手応えが怪しくなり、イスラボニータの6着に終わる。レース後、手塚は次はダートにと語り、路線の再転向を示唆した。この皐月賞が、アジアエクスプレスにとって最後の芝のレースになる。 ダート復帰戦の6月・ユニコーンステークスは単勝1.3倍の断然人気を集めながら、直線でまったく手応えなく12着。答えが出たのは8月10日、新潟のレパードステークスだった。大敗の直後でも1番人気に推された馬は、2着クライスマイルに3馬身半をつけて圧勝する。ダートに戻せば、やはりこの馬が一番強い。だがまもなく、左前脚のトウ骨遠位端骨折が判明する。全治4か月。復活と引き換えのような故障で、3歳の秋は消えた。

勝てなかった二年

2015年3月、地方の名古屋大賞典で復帰。逃げるメイショウコロンボを直線で追い詰めたが、わずかに届かず2着。4月のアンタレスステークスでは自らハナを奪い、直線でクリノスターオーとの叩き合いに屈してまた2着。5月の平安ステークスはインカンテーションの5着、8月のBSN賞は4着。この年の4戦は、すべて1番人気を背負っての敗戦だった。勝ち切れないまま、脚部不安で1年3か月の休養に入る。 2016年11月20日、福島民友カップ。3番人気で迎えた5歳秋の復帰戦は15着、しんがりだった。それが12戦目、最後の一戦になる。12月9日付で競走馬登録は抹消された。12戦4勝、獲得賞金1億7633万円。芝のGI馬でありながら、生涯で芝を走ったのはわずか3戦である。

新冠 ― 父と同じ牧場で

引退後の行き先は、北海道新冠町の優駿スタリオンステーション。父ヘニーヒューズが供用されている牧場である。その父が日本に輸入されたのは2013年10月、息子が中山で芝のGIを勝つ、わずか2か月前のことである。翌2014年、ヘニーヒューズの種付頭数は同スタリオン歴代1位となる191頭に達した。全弟レピアーウィットも2021年にマーチステークスを勝ち、兄と同じくダートの重賞馬になっている。 やがてアジアエクスプレス自身の仔が走り出す。ピューロマジックは2024年の葵ステークスで父にJRA重賞初制覇をもたらし、同年の北九州記念、翌年のアイビスサマーダッシュ、2026年の函館スプリントステークスと、芝の短距離を勝ち続けた。ドンインザムードは2025年8月10日、新潟のダート1800mでレパードステークスを制する。11年前に父が復活を告げたのと、同じ日付の同じ舞台だった。 手塚は後年、こんな話をしている。朝日杯のあと、馬主はしばらく「ア」で始まる馬名ばかりを申請してくるようになった。「1頭もGIを勝つ馬は現れませんでしたけどね……」[^1]。同じ形の馬は、二度と現れなかった。除外がなければ芝は走らず、ムーアの一言がなければ朝日杯には向かわなかった。ダートで生まれ、生涯でわずか三度しか芝を走らなかった栗毛は、その最初の一度で頂点に立った。いま新冠の丘で、自分によく似た速い仔たちを送り出している。

出典:Number Web「仕方なく出したアジアエクスプレスで2013年朝日杯FSを制した手塚師 今年はドゥラモンドで挑む」2020年12月19日配信、https://number.bunshun.jp/articles/-/846275 、閲覧日:2026年7月29日。

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