名馬の記憶を、
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年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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アスコリピチェーノのイメージビジュアル
アスコリピチェーノAscoli Piceno
Ascoli Piceno

アスコリピチェーノ

通算成績12戦6勝

獲得賞金58,830万円

生年月日 2021.02.24(令和3年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
アスコリピチェーノの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
10 GIIサンスポ杯阪神牝馬S 阪神 芝1600 2人気 坂井瑠星 1:33.7 上り34.9映像
7 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 3人気 C.ルメール 1:31.9 上り33.5映像
6 GIジャック・ル・マロワ ドーヴィル 芝1600 1人気 C.ルメール 映像
1 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 1人気 C.ルメール 1:32.1 上り33.3映像
1 GII1351ターフスプリント キングアブドゥル 芝1351 1人気 ルメール 1:17.8 映像
12 ゴールデンイーグル ローズヒルガーデ 芝1500 1人気 J.モレイラ
1 GIII京成杯オータムH 中山 芝1600 1人気 C.ルメール 1:30.8 上り32.7映像
2 GINHKマイルカップ 東京 芝1600 1人気 C.ルメール 1:32.8 上り34.2映像
2 GI桜花賞 阪神 芝1600 1人気 北村宏司 1:32.3 上り33.5映像
1 GI阪神ジュベナイルフィリーズ 阪神 芝1600 3人気 北村宏司 1:32.6 上り33.7映像
1 GIII新潟2歳S 新潟 芝1600 1人気 北村宏司 1:33.8 上り33.3映像
1 2歳新馬 東京 芝1400 1人気 C.ルメール 1:22.8 上り33.3

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
アスコリピチェーノの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ダイワメジャーDaiwa MajorサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
スカーレットブーケノーザンテーストNorthern Taste
スカーレットインクScarlet Ink
アスコルティDanehill DancerデインヒルDanehill
Mira Adonde
リッスンListenSadler's Wells
Brigid
STORY

旅程 — この馬の物語

2021年生まれの黒鹿毛の牝馬。父ダイワメジャー、母アスコルティ。主な勝ち鞍は阪神ジュベナイルF・ヴィクトリアマイル・新潟2歳S。

名と、聴く血 ― イタリアの古都

血の一族は、みな「聴け」と言っていた。 2021年2月24日、ノーザンファーム生まれの黒鹿毛。母の名はアスコルティ――イタリア語で「あなたは聴く」を意味する。その母、つまり本馬の祖母はリッスン(Listen)、2007年のフィリーズマイルを制した英国のGI牝馬で、名の意味はそのまま「聴け」。叔母にはローズステークスを勝ったタッチングスピーチがいて、海を越えてGIを勝つ馬を送り続けた欧州の名牝系である。その血に与えられたのが、イタリア・マルケ州の古都の名、アスコリピチェーノだった。父は皐月賞から古馬マイルまでを制した名マイラー、ダイワメジャー。短く鋭い距離に才を宿す血が、母系の「聴く」響きと重なった。 馬主はサンデーレーシング、育てるのは美浦の黒岩陽一。そしてこの牝馬の物語には、二人の名手が要る。デビュー戦の手綱はクリストフ・ルメール。だが最初の栄冠まで背に跨ったのは、長い沈黙を抱えた一人のベテラン――北村宏司だった。

無傷の夏 ― デビューから連勝

2023年6月24日、東京の芝1400m。新馬戦をルメールとともに後方から進み、直線で外へ持ち出して先頭に立つと、後続に2馬身半の差をつけて快勝した。素質は初戦から隠しようがなかった。 夏、手綱が北村宏司へと移る。新潟2歳ステークス。中団で脚を溜め、直線で鋭く伸びて逃げ粘る馬を1馬身差で捉え、重賞をあっさりと手にした。これで無傷の二連勝。ベテランを背に、無敗の牝馬は年末の2歳女王決定戦へと駒を進める。

八年の沈黙を破る ― 二〇二三年阪神ジュベナイルフィリーズ

2023年12月10日、阪神ジュベナイルフィリーズ。単勝3番人気の評価に対し、アスコリピチェーノは直線で馬群を割って先頭へ躍り出た。外の馬、内の馬との三つ巴を、ハナ差で制する。勝ち時計は1分32秒6のレースレコード。デビューから無傷の三連勝で、無敗の2歳女王に立った。 鞍上の北村にとって、それは長く待ったGI制覇だった。前の栄冠は2015年の菊花賞――若きキタサンブラックに初の大冠を授け、のちに武豊へと主戦を譲り渡した、あの秋。以来、実に八年ぶりのGIだった。若い馬に最初の冠を着せ、やがて別の名手へ渡していく――同じ巡り合わせが、ベテランの手の中でもう一度起きようとしていた。レース後、北村は自らの八年より、まず馬の仕上がりを語った。「すごくいいコンディションだった」[^1]。この年、アスコリピチェーノは最優秀2歳牝馬に選ばれる。

出典:東スポ競馬「【阪神ジュベナイルフィリーズ結果&コメント】アスコリピチェーノが3連勝で頂点 北村宏「すごくいいコンディションだった」」2023年12月10日配信、https://tospo-keiba.jp/breaking_news/39820、閲覧日:2026年7月16日。

届かなかった春 ― 二つの銀

2024年、クラシックの春が来た。桜花賞、1番人気。中団を追走し、ステレンボッシュに続いて直線へ向いたが、前を回られたまま差を詰めきれず、2着に敗れた。皮肉だった――半年前の阪神ジュベナイルフィリーズで、三つ巴の末に下していた相手が、その一頭だったのだ。デビュー以来はじめての黒星を、雪辱されるかたちで喫した。 桜花賞を最後に、手綱は再びルメールへ戻る。続くNHKマイルカップも1番人気。しかし直線で前が塞がってスペースを失い、脚を余したまま、またも2着に届かなかった。二戦続けての、1番人気の銀。頂点にいちばん近い場所で、王冠だけが指のあいだをすり抜けていった。

海を渡る ― 古馬の路と初めての異国

秋、古馬に混じって京成杯オータムハンデキャップへ。中団からスムーズにコーナーを回り、直線で抜群の伸びを見せて勝ち切った。3歳牝馬によるこのレースの制覇は、1985年のエルプス以来39年ぶりの快挙だった。 そして初めて、海を渡る。11月、オーストラリア・ローズヒルのゴールデンイーグル。1番人気に推され、モレイラを背に外目から果敢に差し脚を伸ばしたが、内が伸びる馬場に阻まれて12着。異国の洗礼だった。だが翌2025年2月、サウジアラビアの1351ターフスプリントで、この馬は答えを返す。道中3番手につけ、直線で抜け出すと、逃げ粘る相手をゴール寸前で捉えた。初めての海外勝利。マイルの女王候補は、洗礼を糧に春を迎える。

豪脚、春のマイル女王 ― 二〇二五年ヴィクトリアマイル

2025年5月18日、ヴィクトリアマイル。1番人気に応えるべく大外17番枠から出たアスコリピチェーノは、スタートで後手を踏み、最後方からの競馬を強いられた。柔らかい馬場、外枠、忙しい立ち上がり――不利は重なっていた。 それでも直線、外から繰り出した末脚は抜群だった。前をゆく馬群を一完歩ずつ削り、接戦をクビ差で差し切る。阪神ジュベナイルフィリーズ以来、一年半ぶりの、そして二つ目のGI。あの春に二度届かなかった銀を、今度は金に変えた瞬間だった。ルメールはこのレース歴代最多となる4勝目。名手は勝利の直後、馬の粘り強さをこう讃えた。「最後は頑張った」[^1]。届かなかった春を越えて、牝馬は春のマイル女王になった。

出典:東スポ競馬「【ヴィクトリアマイル結果&コメント】アスコリピチェーノが激戦制す ルメール「最後は頑張った」」2025年5月18日配信、https://tospo-keiba.jp/breaking_news/58486、閲覧日:2026年7月16日。

血は、聴いている ― 旅の終わり

女王になっても、この馬は挑戦をやめなかった。2025年8月、フランス・ドーヴィルのジャック・ル・マロワ賞。1番人気で外埒沿いの好位に脚を溜めたが、馬群のインに押し込められて6着。秋のマイルチャンピオンシップは好位の4番手から進めるも、直線で伸びを欠いて7着に終わる。世界の一線と最後の一冠は、そのつど半歩だけ遠かった。 明けて2026年4月、阪神牝馬ステークス。坂井瑠星に手綱が託されたその一戦を、10着で終える。これが、最後のレースになった。レース後、臀部の筋肉の損傷から骨盤骨折の疑いが認められ、復帰の目処が立たなくなった。5月22日、引退と繁殖入りが発表される。通算12戦6勝、GI二勝。総獲得賞金は5億8830万円。生まれ故郷のノーザンファームで、母となる道を歩みはじめた。 母アスコルティ、祖母リッスン――「聴け」と言い続けた一族に、また一頭、聴く血が加わった。イタリアの古都の名を負った牝馬が、次にどんな走りを聴かせる仔を送り出すのか。それは、いまはまだ誰にも分からない。

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