名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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アルクトスのイメージビジュアル
アルクトスArctos
Arctos

アルクトス

通算成績24戦10勝

獲得賞金29,964万円

生年月日 2015.05.02(平成27年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
アルクトスの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
14 JpnⅠマイルチャンピオンシップ 盛岡 ダ1600 2人気 田辺裕信 1:37.4 上り39.4
7 GIフェブラリーS 東京 ダ1600 3人気 田辺裕信 1:34.7 上り35.1映像
1 JpnⅠマイルチャンピオンシップ 盛岡 ダ1600 1人気 田辺裕信 1:35.3 上り36.3
1 JpnⅡさきたま杯 浦和 ダ1400 1人気 田辺裕信 1:24.9 上り36.6映像
9 GIフェブラリーS 東京 ダ1600 2人気 田辺裕信 1:35.6 上り36.6映像
4 GIII根岸S 東京 ダ1400 6人気 田辺裕信 1:22.5 上り35.8映像
9 GIチャンピオンズカップ 中京 ダ1800 9人気 田辺裕信 1:50.3 上り37.4映像
1 JpnⅠマイルチャンピオンシップ 盛岡 ダ1600 6人気 田辺裕信 1:32.7 上り35.2
6 GIIIエルムS 札幌 ダ1700 6人気 田辺裕信 1:44.1 上り36.3映像
4 JpnⅠかしわ記念 船橋 ダ1600 4人気 田辺裕信 1:39.4 上り36.7
9 GIフェブラリーS 東京 ダ1600 4人気 田辺裕信 1:37.0 上り38.3映像
2 JpnⅠマイルチャンピオンシップ 盛岡 ダ1600 2人気 田辺裕信 1:34.5 上り36.3
1 GIIIプロキオンS 中京 ダ1400 2人気 田辺裕信 1:21.2 上り36.5映像
1 OP欅S 東京 ダ1400 1人気 田辺裕信 1:23.4 上り35.5
1 LオアシスS 東京 ダ1600 4人気 田辺裕信 1:36.7 上り36.3
6 OPポルックスS 中山 ダ1800 2人気 田辺裕信 1:54.0 上り37.4
1 錦秋S 東京 ダ1600 1人気 田辺裕信 1:38.1 上り35.5
5 GIIIレパードS 新潟 ダ1800 4人気 田辺裕信 1:52.8 上り38.4映像
1 猪苗代特別 福島 ダ1700 2人気 田辺裕信 1:45.7 上り36.5
1 3歳以上500万下 東京 ダ1600 2人気 田辺裕信 1:36.6 上り36.2
9 3歳500万下 東京 芝1600 6人気 田辺裕信 1:35.8 上り35.7
8 3歳500万下 中山 ダ1800 1人気 大野拓弥 1:57.4 上り41.1
1 3歳未勝利 東京 ダ1600 1人気 大野拓弥 1:37.4 上り35.9
2 2歳新馬 東京 ダ1400 3人気 大野拓弥 1:24.2 上り35.9

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
アルクトスの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
アドマイヤオーラアグネスタキオンAgnes TachyonサンデーサイレンスSunday Silence
アグネスフローラ
ビワハイジCaerleon
アグサンAghsan
ホシニイノリヲシンボリクリスエスSymboli Kris SKris S.
Tee Kay
コンキスタドレスConquistadoressSeeking the Gold
Bless You

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2015年生まれの鹿毛の牡馬。父アドマイヤオーラ、母ホシニイノリヲ。主な勝ち鞍はマイルチャンピオンシップ・さきたま杯・プロキオンS。

星に祈りを ― 名と血

2015年5月2日、北海道新冠町の須崎牧場に鹿毛の牡馬が生まれた。母の名はホシニイノリヲ。星に祈りを――その母名からの連想で、仔にはアルクトスという名が与えられた。ギリシャ語で北斗七星を指す言葉である。 父アドマイヤオーラは、この仔が生まれる2か月前、2015年3月3日に世を去っていた。左前脚の故障から肩甲骨の粉砕骨折が判明し、11歳だった。シンザン記念と弥生賞、京都記念を勝った芝の中距離馬で、その母は名繁殖ビワハイジ。ビワハイジの仔にはGI6勝のブエナビスタ、皐月賞3着・菊花賞2着のアドマイヤジャパン、GIを勝ったジョワドヴィーヴルが並ぶ。華やかな一族の末に、父の顔を知らない仔がいた。 母の側は、アメリカ産の祖母コンキスタドレスに遡る。1995年のアッシュランドステークス2着馬で、その仔にはダートのブリリアントステークスで2着したタマモクリエイトもいる。母ホシニイノリヲには、アルクトスのほかに4頭の半きょうだいがいる。うち5歳下の半弟の名はアルカイド――北斗七星の、柄の先端にある星の名だ。星に祈りを、という名の母のまわりには、空の名前が集まってくる。 生産者の須崎牧場は新冠にある。同じ新冠の須崎の牧場からは、1989年の皐月賞馬ドクタースパートも出ている。アルクトスは2016年のセレクションセールに1歳で上場され、山口功一郎が1900万円(税抜)で落札した。預けられたのは、美浦の栗田徹厩舎だった。

4戦目の乗り替わり

2017年10月14日、東京・ダート1400mの新馬戦。大野拓弥を背に3番手から内を突いたが、逃げる馬を捉えきれず2着。始まりは黒星だった。 年が明けた2月、同じ東京のダート1600mの未勝利戦を単勝1.4倍に応えて6馬身差で圧勝する。ところが距離を200m延ばした中山の1800mでは、1番人気で8着。続いて試した芝の1600mも9着に終わった。 この4戦目から、手綱は田辺裕信に渡っている。芝で敗れた一戦が、二人の始まりだった。以後アルクトスは、最後の一戦まで21回続けてこの男を背に走ることになる。 ダートに戻すと、答えははっきりしていた。東京の1600mを3馬身半差、福島の猪苗代特別と連勝。初めての重賞となった夏の新潟・レパードステークスは、内を突いて追ったものの外から差されて5着。それでも秋の錦秋ステークスでは自ら先手を取り、逃げ切ってオープン入りを果たした。

七夕の星 ― プロキオンステークス

4歳になった2019年、正月の中山1800m・ポルックスステークスは6着。8着、5着、6着と、この距離だけがどうしても噛み合わなかった。 陣営が戻したのは東京のマイルである。4月のオアシスステークスを差し切り、5月の欅ステークスではドリームキラリとの叩き合いをハナ差で凌ぐ。東京のダート1600mは、これで4戦4勝になっていた。 そして7月7日、中京のプロキオンステークス。前年のこのレースを日本レコードで勝ち、前走のドバイゴールデンシャヒーンで2着に入っていたマテラスカイが速い流れを作った。アルクトスは好位でそれを見て、残り100mでマテラスカイを交わし、外から並びかけたミッキーワイルドを振り切る。3連勝での重賞初制覇だった。 七夕の日に、プロキオンという恒星の名を冠したレースを、ホシニイノリヲの仔である北斗七星が勝つ。田辺にとっては重賞30勝目、2011年に開業した栗田にとっては、24回目の重賞挑戦でようやく届いた初めての重賞だった。

盛岡の1馬身半

初めてのJpnIは、10月14日の盛岡だった。マイルチャンピオンシップ南部杯。休養明けのゴールドドリームが単勝1.3倍、アルクトスはマイル戦4戦無敗の距離適性を買われて2番人気に推された。 競り合う先行2頭から離れた3番手。4コーナーで後ろから迫るゴールドドリームに合わせて追い出したが、外を回って先頭に並びかけたサンライズノヴァの勢いには届かず、内から伸びて1馬身半差の2着。田辺は、1番人気のゴールドドリームを意識しすぎたかもしれない、と振り返り、それでも自分の競馬はできた、初めてのGIでよく食らいついてくれた、と続けた。 北へ来て、初めて頂の近さを知った一戦だった。

1分32秒7

5歳の2020年は、勝てない年として過ぎていくはずだった。2月のフェブラリーステークスは逃げるワイドファラオを追って直線で先頭に立ったが、速い流れが応えて9着。5月、船橋のかしわ記念はスローの逃げを許して4着。8月、札幌のエルムステークスは中団の内から差を詰めきれず6着。 10月12日、雨の盛岡。単勝6番人気だった。前を行くインティモズアスコットを好位の外から追い、4コーナーで前に並ぶ。直線は、内で粘るモズアスコットとの叩き合いになった。クビ差、先に出た。 時計は1分32秒7。2001年の武蔵野ステークスでクロフネが刻んだ1分33秒3を0秒6上回る、ダート1600mの日本レコードだった。 山口にとっても、栗田にとっても、これが初めてのGI級制覇である。父アドマイヤオーラの産駒としても初めてだった。デビュー4戦目から手綱を握り続けた田辺は、早いうちからコンビを組んで試行錯誤しながらやってきた、大きいところを取らせたかったから嬉しい、と語り、ゴールの瞬間に見えたものをこう言った。「この馬とのこれまでのレースが浮かんできた」[^1] 暮れの中京、初めて臨んだチャンピオンズカップは9番人気9着。1800mは、やはり長かった。

出典:中日スポーツ「単勝6番人気・アルクトスがG1級レース初制覇!ゴール前で「これまでのレースが浮かんできた」田辺感慨」2020年10月12日配信、https://www.chunichi.co.jp/article/135949 、閲覧日:2026年7月25日。

コパノリッキー以来 ― 南部杯連覇

6歳の始動は1月の根岸ステークス。南部杯を勝ったことによる別定で59kgを背負い、直線は内を突いて勝ち馬と0秒2差の4着。2月のフェブラリーステークスはカフェファラオに次ぐ2番人気に推されたが、伸びを欠いて9着だった。 秋に金沢で行われるJBCスプリントを目標に据え、同じ小回りの1400mということで6月のさきたま杯へ向かう。浦和の砂を5番手で進み、4コーナーで外へ持ち出すと、内から伸びるエアスピネルを半馬身抑えた。重賞3勝目。 そして10月11日、大外16番枠から、1番人気で臨んだ南部杯。道中3番手、直線で抜け出し、ヒロシゲゴールドに2馬身半差をつけた。コパノリッキー以来、史上7頭目の連覇である。 その名前は、田辺にとって特別な響きを持っていた。2014年のフェブラリーステークスを単勝272.1倍の最低人気で勝ち、この男に初めてのGIをもたらしたのがコパノリッキーであり、2016年と2017年に南部杯を連覇したときも鞍上は田辺だった。盛岡のマイルを、この男はこれで4度勝ったことになる。

届かなかった府中

東京のダート1600mを4戦4勝で駆け上がった馬が、同じコースのGIには3度挑んで、ついに届かなかった。2020年9着、2021年9着、2022年7着。府中のマイルは、この馬を育てた場所であり、最後まで越えられなかった壁でもある。 2021年の南部杯のあと、右前の球節に不安が出て休養に入った。明けて2022年2月のフェブラリーステークスで7着。それから8か月を空け、7歳の秋に3連覇を目指して盛岡へ向かったが、14着に終わる。山口は自身の投稿で、年齢もあり8か月ぶりで本来の勢いがなかったと述べ、この一戦をもって競走生活を退くことを明らかにした。10月14日付で、JRAの競走馬登録は抹消された。 通算24戦10勝。中央で18戦7勝、地方で6戦3勝。地方で走った6戦のうち3つの勝利はすべて交流重賞で、稼いだ賞金も中央の1億4094万円に対して地方が1億5870万円と上回った。府中のマイルで鍛えられ、盛岡のマイルで頂に立った馬だった。 その13日後、田辺裕信は阪神の菊花賞をアスクビクターモアで勝っている。

新冠に還る ― 星の名を継ぐ仔たち

種牡馬としての繋養先は、新冠の優駿スタリオンステーション。父アドマイヤオーラが種牡馬として立った場所であり、アルクトス自身が生まれた町でもある。父の血を継ぐ種牡馬は多くない。アルクトスは、その細い線の一本になった。 2023年、初年度は51頭に種付けされ、32頭が生まれた。その仔たちが2歳を迎えた2026年、12頭が競馬場に立ち、うち3頭が勝ち上がっている。 名簿を眺めると、空の名前が並ぶ。アルコル――北斗の柄にあるミザールの伴星。メグレズ――北斗七星でただひとつの3等星。カストールも、アルギエバも、星の名だ。北斗七星の名をもらった馬の仔たちに、その柄杓をかたちづくる星の名がついている。美浦の栗田厩舎にも1頭、まだ走り出していない牝馬がいる。 南部杯のレコードは、いまも1分32秒7のままだ。星に祈りを、という名の母がいた。その仔は北斗七星の名をもらい、雨の盛岡にその数字を刻んで、生まれた町に還っていった。名前を分け与えられた仔たちが、これから走り出す。

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