名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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アポロマーベリックのイメージビジュアル
アポロマーベリックApollo Maverick
Apollo Maverick

アポロマーベリック

通算成績31戦7勝

獲得賞金25,098万円

生年月日 2009.04.15(平成21年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
アポロマーベリックの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
JGⅠ中山大障害 中山 障4100 3人気 五十嵐雄 映像
3 OPイルミネーションJS 中山 障3570 3人気 五十嵐雄祐 3:59.4 上り13.4
8 JGⅡ東京ハイジャンプ 東京 障3110 5人気 五十嵐雄祐 3:29.6 上り13.5
3 JGⅡ京都ハイジャンプ 京都 障3930 2人気 五十嵐雄祐 4:27.0 上り13.6
5 JGⅠ中山グランドジャンプ 中山 障4250 2人気 五十嵐雄祐 4:50.7 上り13.7映像
5 OPペガサスジャンプS 中山 障3350 2人気 五十嵐雄祐 3:46.3 上り13.5
2 JGⅠ中山大障害 中山 障4100 1人気 五十嵐雄祐 4:41.5 上り13.7映像
11 3歳以上500万下 中山 ダ1800 7人気 五十嵐雄祐 1:56.0 上り39.3
6 JGⅡ東京ハイジャンプ 東京 障3110 2人気 五十嵐雄祐 3:28.0 上り13.4
1 JGⅠ中山グランドジャンプ 中山 障4250 1人気 五十嵐雄祐 4:50.7 上り13.7映像
1 OPペガサスジャンプS 中山 障3350 1人気 五十嵐雄祐 3:49.8 上り13.7
1 JGⅠ中山大障害 中山 障4100 5人気 五十嵐雄祐 4:45.8 上り13.9映像
OP秋陽ジャンプS 東京 障3110 1人気 草野太郎
5 JGⅡ東京ハイジャンプ 東京 障3110 5人気 草野太郎 3:28.3 上り13.4
1 東京ジャンプS 東京 障3110 4人気 草野太郎 3:27.9 上り13.4
5 障害3歳以上OP 東京 障3100 2人気 草野太郎 3:25.9 上り13.3
1 障害4歳以上未勝利 中山 障2880 1人気 平沢健治 3:10.3 上り13.2
3 障害4歳以上未勝利 中山 障2880 6人気 平沢健治 3:16.6 上り13.7
11 4歳以上1000万下 中山 ダ1800 12人気 田中博康 1:54.8 上り39.9
13 3歳以上1000万下 中山 ダ1800 11人気 武豊 1:54.9 上り39.4
12 福島放送賞 福島 ダ1700 14人気 丹内祐次 1:48.0 上り39.4
14 市原特別 中山 ダ1800 10人気 中舘英二 1:57.0 上り43.1
1 3歳以上500万下 中山 ダ1800 4人気 武豊 1:53.2 上り38.4
17 出雲崎特別 新潟 芝1800 15人気 西田雄一郎 1:47.6 上り35.2
13 3歳以上500万下 新潟 ダ1800 9人気 嶋田純次 1:55.9 上り38.9
15 滝桜賞 福島 ダ1700 6人気 勝浦正樹 1:50.8 上り41.7
1 3歳未勝利 中山 ダ1800 2人気 武豊 1:54.0 上り39.0
10 3歳未勝利 東京 ダ1600 5人気 柴田善臣 1:42.8 上り37.4
8 3歳未勝利 中山 ダ1800 2人気 柴田善臣 1:58.9 上り41.7
2 2歳未勝利 中山 ダ1800 2人気 柴田善臣 1:57.7 上り39.7
7 2歳新馬 東京 芝1600 3人気 武豊 1:38.4 上り35.4

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
アポロマーベリックの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
アポロキングダムLemon Drop KidKingmambo
Charming Lassie
Bella GattoStorm Cat
Winter Sparkle
オメガファスターTheatricalNureyev
ツリーオブノレッジTree of Knowledge
ファスタFastaSeattle Song
Aspern
STORY

旅程 — この馬の物語

2009年生まれの鹿毛の牡馬。父アポロキングダム、母オメガファスター。

門別の四番仔

2009年4月15日、北海道日高町——門別で、鹿毛の牡馬が生まれた。生産者は藤本友則。母オメガファスターは2001年に千歳で生まれた牝馬で、2004年に十戦している。芝の2000メートル、ダートの1700メートル、川崎まで運ばれた交流戦。十度走って、勝ち鞍はなかった。 その母の母、ファスタはアメリカ生まれの芝馬である。18戦4勝。1996年のミセズリヴィアステークス、1997年のヴァイオレットハンデキャップと、GⅢで二度2着に入っている。あと一歩のところで止まる血が、そのまま日本へ渡ってきていた。 父アポロキングダムもアメリカ産だった。Lemon Drop Kidの息子で、母の父はStorm Cat。血の並びだけなら立派だが、日本での11戦で勝ったのは中山の未勝利戦と東京の500万下だけである。2007年の秋を最後に競走をやめ、翌年から種牡馬になった。最初の年に集まった牝馬は19頭、生まれた仔は11頭。この鹿毛は、その11頭のうちの一頭だった。 馬主はアポロサラブレッドクラブ。勝負服は黒に赤い袖、黄の鋸歯形。冠名「アポロ」に続く名は、アメリカの空対地ミサイルから採られている。AGM-65マーベリック——1960年代にアメリカ空軍が開発した、対戦車から対艦まで使う多目的ミサイルである。英語の maverick はもともと、焼き印の押されていない家畜を指す言葉だった。群れから離れた者、という意味も持つ。 母の四番仔である。二歳上の半兄アポロノリックは中央で2戦、一歳上の半姉アポロレディバードは中央と地方で22戦して、どちらも勝ち星に手が届いていない。預かったのは美浦の堀井雅広。1951年、京都市伏見区の生まれで、騎手を二十年余り務めたあと1995年に厩舎を開いた男である。厩務員は瀬戸口寛。

砂と芝の十三戦

2011年11月26日、東京競馬場の芝1600メートル。2歳新馬戦の鞍上は武豊だった。関東の厩舎に関西の騎手——堀井雅広は、それをずっと当たり前にしてきた人である。自分も武も京都の出だという縁があり、関東の厩舎が何で関西の騎手を起用するんだと言われた時代から、声をかけ続けていた。12頭の3番人気で7着、上がりは35秒4。 一か月後の中山、ダート1800メートル。柴田善臣に替わって2着。年が明けて8着、10着。五戦目の2012年2月25日、不良馬場の中山ダート1800メートルを、また武豊で勝ち上がった。 500万下では続かなかった。福島の滝桜賞15着、新潟の500万下13着、芝に戻した出雲崎特別は18頭の17着。三戦続けて二桁に沈んだあと、9月8日の中山ダート1800メートルを、三度目の武豊で勝つ。二勝目である。結局、平地での勝ち鞍はこの二つだけになった。 1000万下では市原特別14着、福島放送賞12着、暮れの中山で13着。そして2013年1月19日、重馬場の中山ダート1800メートルを12番人気の11着。田中博康が乗った。平地の十三戦目だった。 砂でも芝でも、この馬の速さは足りていなかった。だが跳ぶことは、まだ試していなかった。

跳ぶことを覚える

2013年3月9日、中山の障害4歳以上未勝利、2880メートル。59キロを背負い、平沢健治を乗せて6番人気の3着。三週間後の3月30日、同じ条件を1番人気で勝った。3分10秒3、2着タイセイクライマーに1秒2差。転向二戦目での、障害初勝利である。 6月9日、東京の障害オープンで草野太郎と初めて組んで5着。その二週後、6月22日の東京ジャンプステークス。J・GIIIの14頭立て、4番人気だった。好位で運び、直線で前を粘るスナークスペインをかわして、3分27秒9で先にゴールへ入る。デビュー七年目の草野にとっては、これが初めての重賞制覇だった。前走で癖をつかめたから自信を持って乗れた、と草野は振り返り、まだ4歳だからこれからが楽しみだと話している。 平地で十三戦かけて二勝した馬が、障害では四戦目で重賞を勝った。跳ぶことのほうが、この馬には向いていた。

大竹柵の先で

秋は苦しかった。10月12日の東京ハイジャンプは5着。11月16日の秋陽ジャンプステークスでは単勝2.0倍の1番人気に推されたが、他馬の影響を受けて競走を中止している。障害では、自分が跳べていても走り終えられないことがある。 12月21日、中山競馬場。第136回中山大障害。1934年、中山競馬倶楽部の理事長だった肥田金一郎が、東京優駿に匹敵する中山の名物競走にしようとして創ったレースである。使われるのは襷コース。高さ160センチ・幅205センチの大竹柵と、高さ160センチ・幅240センチの大生垣が待つ。高さだけでなく、距離も跳ばなければ越えられない造りになっている。 16頭立て、単勝10.1倍の5番人気、63キロ。鞍上は五十嵐雄祐に替わっていた。1984年、福島県の生まれ。2002年にデビューし、障害を主戦場にして2009年と2010年にJRA賞最多勝利障害騎手を獲った騎手である。J・GIには2004年12月の中山大障害で初めて乗り、イサミゴマで13番人気の9着だった。それから九年、いちばん上の一つだけが残っていた。 序盤は好位。大竹柵を越えたところで、すっと先頭に立った。あとは後ろを寄せつけなかった。2着ハッピーティアとの差は8馬身、時計は4分45秒8。 「障害センスの塊のような馬。もっと活躍する」[^1]。二十九歳の五十嵐は、初めてのJ・GIのあとにそう言った。 この年、クラブは春の東京優駿でアポロソニックが3着に入っている。暮れに冠名をいちばん高いところへ持ち上げたのは、平地では二勝しかできなかった鹿毛だった。2013年度のJRA賞、最優秀障害馬の選考で261票を集める。

出典:スポーツニッポン「【中山大障害】アポロマーベリックJ・G1初制覇!」2013年12月22日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2013/12/22/kiji/K20131222007246600.html 、閲覧日:2026年7月30日。

天才ジャンパー

2014年3月30日、ペガサスジャンプステークス。重馬場の中山3350メートルを1番人気で、シャイニーブラックに0秒5差をつけて勝つ。 4月19日、中山グランドジャンプ。10頭立て、単勝1.4倍。中山の障害コースはここまで4戦3勝、3着一回。当日の紙面には、堀井雅広がこの馬を「天才ジャンパー」と呼んだ、と書かれていた[^1]。 先手を取って、そのまま行った。2着コスモソユーズに5馬身、4分50秒7。2011年から国際競走になり、外国馬が優先して出走できる4250メートルである。四歳の暮れに大竹柵を越えて先頭に立った馬は、五歳の春には最初から先頭で越えていった。 J・GIは二つになった。障害に転じてから、まだ一年一か月しか経っていない。

出典:スポーツニッポン「【中山グランドJ】ミスターX“天才”アポロマーベリックで鉄板」2014年4月19日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2014/04/19/kiji/K20140419008000030.html 、閲覧日:2026年7月30日。

一番人気の二着

10月13日の東京ハイジャンプは2番人気の6着。そこから暮れまでの使い方が、この厩舎らしい。12月6日、中山のダート1800メートル、3歳以上500万下。57キロを背負って11着。障害でJ・GIを二つ勝っていても、平地での身分は二勝馬のままだった。堀井厩舎は出走回数を信条にする厩舎で、夢は一日の全レースに管理馬を出すことだと調教師は言っていた。障害の頂に立った馬が、その二週間前に平地の条件戦を走っている。 12月20日、中山大障害。13頭立ての単勝1.7倍、1番人気。4分41秒5で走り、4分41秒0のレッドキングダムに0秒5届かなかった。北沢伸也が乗っていた。襷コースで初めて、前に馬がいた。 2014年度のJRA賞。記者投票は、中山大障害を勝ったレッドキングダムを76票差で抑えてこの馬を選んだ。二年連続の最優秀障害馬である。年が明けると、春秋のJ・GIをどちらも勝ちたい、と堀井は語っていた。

四分五十秒七

2015年、六歳。3月29日のペガサスジャンプステークスは2番人気の5着だった。 4月18日、中山グランドジャンプ。15頭の2番人気。この日も前へ行った。二周目の一コーナーで並んで先頭にいたのがアップトゥデイトで、三コーナーでも譲らない。だが四コーナーを回ったとき、単独の先頭はその芦毛だった。大竹柵も大生垣も越えたあとの直線を独走され、レコードの4分46秒6を出されて、アポロマーベリックは5着。時計は4分50秒7だった。前年、自分が勝ったときとまったく同じ数字である。同じ時計で走って、4秒1足りなくなっていた。 5月30日、初めて西へ運ばれた。京都ハイジャンプで3着。秋は10月18日の東京ハイジャンプが8着、12月5日のイルミネーションジャンプステークスが3着。ここまで五戦して、勝ち鞍のない年だった。 それでも暮れの中山大障害では、14頭の3番人気に推された。この馬が襷コースで何をしたかを、票を投じる側は覚えていた。

二周目、いけ垣の手前で

2015年12月26日、中山競馬場。第138回中山大障害、良馬場。63キロ。鞍上はいつもの五十嵐雄祐だった。 二周目、5号障害のいけ垣へ向かうその手前で、左の第3中手骨を開放骨折した。競走中止。予後不良と診断され、安楽死の措置がとられた。六歳だった。 レースはアップトゥデイトが4分37秒9で勝ち、この年、中山グランドジャンプと中山大障害の両方を手にしている。6着には四歳のオジュウチョウサンがいた。翌年から五年続けて中山グランドジャンプを勝ち、障害の時代をまるごと自分のものにしていく馬である。 31戦7勝。平地で14戦2勝、障害で17戦5勝。獲得賞金2億5098万円。中山の襷コースは五度走って、二度勝ち、一度は2着だった。二年前の暮れ、大竹柵の先で先頭に立ち、8馬身の差をつけてゴールへ入った、同じ場所である。

白馬牧場から、また

五十嵐雄祐は2015年、障害で11勝を挙げて五年ぶり三度目のJRA賞最多勝利障害騎手になった。相棒を失った年である。 2022年12月24日、中山大障害をニシノデイジーで勝った。2013年12月21日以来、九年ぶりの中山大障害制覇だった。2024年にも同じ馬で同じ競走を勝ち、2025年3月には阪神スプリングジャンプをヴェイルネビュラで制して、障害重賞が行われる六つの競馬場すべてで勝った騎手になっている。その最初のJ・GIを運んできたのが、あの鹿毛だった。 堀井雅広は2022年2月末、定年で調教師を退いた。騎手として二十二年、調教師として二十九年。騎手を育てるのは馬で、名医を育てるのは患者、名教師を育てるのは生徒だと彼は言い、そのあとにこう続けた。「そして調教師は従業員が育てる、と思ってるんですよ」[^1]。この馬の世話をしていたのは瀬戸口寛である。同じ2022年の10月にアポロサラブレッドクラブは解散し、所有馬はオークションに出された。クラブの名で新しい馬が送り出されることは、もうない。 父アポロキングダムは、新冠町の白馬牧場に繋養されている。九年後に五十嵐に中山大障害を運んだニシノデイジーが、いま種牡馬として立っているのと同じ牧場である。 門別で生まれ、平地では二勝だった馬に、アメリカの空対地ミサイルの名が付いていた。焼き印のない家畜、群れから離れた者。その名を負った鹿毛は、四歳と五歳の二度、高さ160センチの大竹柵の先で先頭に立った。あの障害が使われるのは、春と暮れの二日だけである。開くたびに、それは同じ高さで馬を待っている。

出典:スポニチ競馬Web「堀井師 馬主思い…出走回数にこだわり、諸外国のエッセンス導入も」2022年2月9日配信、https://keiba.sponichi.co.jp/news/20220208s00004000640000c 、閲覧日:2026年7月30日。

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