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アンジュデジール
通算成績19戦6勝
獲得賞金2億652万円
生年月日 2014.05.01(平成26年)毛色 黒鹿毛性 牝
全成績
主要戦績(抜粋)・新しい順| 年月日 | 着順 | レース | コース | 人気 | 騎手 | タイム | 上り3F | 映像 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 12 | GII東海テレビ杯東海S | 中京 ダ1800 | 3人気 | 横山典弘 | 1:53.8 | 上り39.2 | 映像 | |
| 4 | GIチャンピオンズカップ | 中京 ダ1800 | 9人気 | 横山典弘 | 1:50.7 | 上り36.5 | 映像 | |
| 1 | JpnⅠJBCレディスクラシック | 京都 ダ1800 | 6人気 | 横山典弘 | 1:50.4 | 上り37.3 | — | |
| 4 | JpnⅡレディスプレリュード | 大井 ダ1800 | 3人気 | 横山典弘 | 1:54.7 | 上り38.1 | — | |
| 5 | GIIIエルムS | 札幌 ダ1700 | 7人気 | 横山典弘 | 1:42.8 | 上り37.2 | 映像 | |
| 1 | JpnⅢマリーンカップ | 船橋 ダ1600 | 2人気 | 横山典弘 | 1:41.2 | 上り37.4 | — | |
| 1 | JpnⅡエンプレス杯 | 川崎 ダ2100 | 4人気 | 横山典弘 | 2:16.3 | 上り39.4 | — | |
| 2 | JpnⅢクイーン賞 | 船橋 ダ1800 | 2人気 | 横山典弘 | 1:52.4 | 上り38.3 | — | |
| 5 | JpnⅠJBCレディスクラシック | 大井 ダ1800 | 2人気 | 横山典弘 | 1:55.2 | 上り39.7 | 映像 | |
| 3 | JpnⅡレディスプレリュード | 大井 ダ1800 | 3人気 | 横山典弘 | 1:54.7 | 上り39.8 | — | |
| 1 | JpnⅢスパーキングレディー | 川崎 ダ1600 | 2人気 | 横山典弘 | 1:41.6 | 上り38.5 | — | |
| 2 | JpnⅡ関東オークス | 川崎 ダ2100 | 3人気 | 横山典弘 | 2:19.9 | 上り39.0 | — | |
| 1 | 3歳500万下 | 東京 ダ1600 | 2人気 | 横山典弘 | 1:35.8 | 上り37.0 | — | |
| 2 | 3歳500万下 | 京都 ダ1400 | 4人気 | 太宰啓介 | 1:24.5 | 上り37.8 | — | |
| 13 | GIIフィリーズレビュー | 阪神 芝1400 | 15人気 | 鮫島良太 | 1:22.3 | 上り36.1 | 映像 | |
| 5 | 3歳500万下 | 京都 芝1400 | 3人気 | 岩田康誠 | 1:24.1 | 上り34.6 | — | |
| 5 | こうやまき賞 | 中京 芝1600 | 6人気 | 太宰啓介 | 1:35.9 | 上り34.0 | — | |
| 1 | 2歳未勝利 | 札幌 芝1200 | 1人気 | 四位洋文 | 1:10.6 | 上り34.7 | — | |
| 2 | 2歳新馬 | 函館 芝1200 | 1人気 | 四位洋文 | 1:10.6 | 上り36.5 | — |
血統
金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ| 父ディープインパクトDeep Impact | サンデーサイレンスSunday Silence | Halo |
| Wishing Well | ||
| ウインドインハーヘアWind in Her Hair | Alzao | |
| Burghclere | ||
| 母ティックルピンク | フレンチデピュティFrench Deputy | Deputy Minister |
| Mitterand | ||
| ブラッシングプリンセスBlushing Princess | Crafty Prospector | |
| Princess Laika |
旅程 — この馬の物語
2014年生まれの黒鹿毛の牝馬。父ディープインパクト、母ティックルピンク。主な勝ち鞍はJBCレディスクラシ。
浦河の五月 ― 天使の欲望と名づけられて
2014年5月1日、北海道浦河郡浦河町の辻牧場で、黒鹿毛の牝馬が生まれた。父はディープインパクト、母はティックルピンク、母の父はフレンチデピュティ。馬主は安原浩司。与えられた名はアンジュデジール――フランス語で「天使の欲望」を意味する。 父は芝で無敗の三冠を駆けた馬である。しかし母の側の血は、はっきりと別の方角を指していた。半兄アキトクレッセントはダートのオープン競走で2勝を挙げ、母ティックルピンクの半弟にあたるオールブラッシュは、のちに川崎記念を勝つことになる。さらに遡れば、4代母の子孫にはカナダ三冠を制したウィズアプルーヴァルとイズヴェスチヤ、ベルモントステークスを勝ったタッチゴールドが並ぶ。北米の砂に根を張った一族だった。 預けられたのは栗東の昆貢厩舎。ディープスカイでNHKマイルカップと東京優駿を、ヒルノダムールで天皇賞(春)を勝った男である。 2016年6月25日、函館の芝1200m。四位洋文を鞍上に1番人気でデビューし、ロイヤルメジャーの2着に敗れた。7月31日の札幌の未勝利戦は1番人気に応えて危なげなく勝ち上がる。ここまでは、どこにでもある良血牝馬の順路だった。12月の中京・こうやまき賞は6番人気で5着。勝ったのは、翌年に皐月賞2着とマイルチャンピオンシップ制覇を果たすペルシアンナイトである。相手が悪かった、で済む範囲の敗戦でもあった。
芝を捨てる ― 二〇一七年春
3歳の2月、京都の芝1400mで5着。3月12日のフィリーズレビューは18頭立ての15番人気に落ち、13着に終わった。桜の道は、そこで閉じた。 この年の2月1日、母の半弟オールブラッシュが川崎記念を勝っている。血の指す方角は、とうに示されていた。陣営は芝に見切りをつける。 4月23日、京都のダート1400m。初めての砂で、ファームフェイスの2着に走った。手応えはあった。そして5月13日、東京のダート1600m。この日から手綱を取ったのが、横山典弘である。重馬場を2番人気で押し切り、2勝目を挙げた。 以後、彼女がゲートに入るとき、そこにいるのは常に同じ男だった。この日から引退までの13戦、鞍上が替わることはない。
ホクトベガメモリアル ― 川崎の夏
6月14日、川崎のダート2100m、関東オークス。重馬場を戦って、ルメールの駆るクイーンマンボに0秒9及ばず2着。牝馬の砂路線に、彼女の名がようやく載った。 3週間後の7月6日、同じ川崎。スパーキングレディーカップ。3歳の彼女の負担重量は52キロ。道中を好位で進み、直線は馬場の内から抜け出して、ララベルに1馬身半の差をつけた。重賞初制覇である。 このレースには副題がある。ホクトベガメモリアル。 1990年、同じ浦河町の酒井牧場に生まれた牝馬がいた。1993年のエリザベス女王杯を勝ったあと勝ち星が遠のき、1995年6月、初めて走った川崎のエンプレス杯で2着に大差をつけて一変する。そこから砂に軸を移し、川崎記念、フェブラリーステークス、帝王賞、そしてエンプレス杯連覇と勝ち続けた。砂の女王と呼ばれた。その一連の鞍上に座っていたのが、横山典弘だった。1997年4月3日、ドバイワールドカップの最終コーナーで彼女は転倒し、左前を砕いて還らなかった。川崎競馬場は翌年から、この牝馬限定重賞に彼女の名を冠している。 浦河に生まれ、芝で行き場を失い、砂で開いた牝馬が、二十年後、同じ男を背に、その名を冠したレースを勝った。 秋は勝ち切れなかった。10月のレディスプレリュードはクイーンマンボの3着。11月3日、大井のJBCレディスクラシックは2番人気で5着に沈み、勝ったのは夏に自分が退けたララベルだった。12月のクイーン賞はプリンシアコメータの2着。届きそうで届かない位置に、彼女は一年を通して立ち続けた。
借りを返す順番
4歳になった彼女は、負けた相手を順に抜き返していく。 2月28日、川崎のエンプレス杯。中団から追走し、直線で外に持ち出して、プリンシアコメータを差し切った。年末のクイーン賞で先着を許した相手である。重賞2勝目。ホクトベガが連覇したレースでもあった。 4月11日、船橋のマリーンカップ。57キロを背負いながら好スタートからハナを奪い、軽快に飛ばして、追いすがるクイーンマンボを振り切った。関東オークスで0秒9の差をつけられた相手である。重賞3勝目。二つの借りを、二戦で返した。 夏は足踏みした。8月の札幌・エルムステークスは牡馬混合で7番人気の5着。10月の大井・レディスプレリュードは4着で、プリンシアコメータが勝った。勝ったり負けたりを繰り返しながら、彼女は牝馬ダート路線のいちばん濃い場所に居続けていた。
淀に来た祭り ― 二〇一八年十一月四日
JBCは地方競馬の祭りである。2001年に始まって以来、大井、盛岡、川崎と地方の競馬場を持ち回ってきた。それがこの年だけ、JRAの京都競馬場で行われた。JBCがJRAの競馬場を舞台にしたのは、これが初めてのことだった。翌年以降、祭りはふたたび地方へ戻っている。 晴れ。ダートは良。16頭立ての大外16番枠。単勝1310円の6番人気だった。1番人気はブリーダーズゴールドカップを圧勝してきたラビットラン、2番人気は関東オークスとレディスプレリュードで彼女の前を走ったクイーンマンボである。 大外から好ダッシュを決めると、先行争いを無理に追わず、最初のコーナーまでにするりと馬群の内へ潜り込んだ。3コーナー、内の彼女と外のラビットランが同時に動き出す。直線入口で2頭は馬体を併せ、そのまま先頭に立った。あとはマッチレースである。一度はラビットランが前に出た。そこから、差し返した。アタマ差。1分50秒4。3着ファッショニスタは半馬身届かず、クイーンマンボは4着に終わった。 「よく盛り返してくれた」[^1] 50歳の横山にとっても、昆にとっても、このレースは初勝利だった。そして、実績が芝に偏っていたディープインパクト産駒で、ダートのGI級競走を勝ったのは、この馬が初めてだった。 12月2日のチャンピオンズカップでは、9番人気ながら牡馬の一線級に混じって4着に食い込んでいる。勝ったのは、この年のJRA賞最優秀ダートホースに選ばれるルヴァンスレーヴだった。
出典:日本中央競馬会「2018年 JBCレディスクラシック」(レース回顧)、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/jbc/result/jbc_la2018.html、閲覧日:2026年7月26日。
左前
目標はフェブラリーステークスだった。2019年1月20日、中京の東海ステークス。3番人気。 直線で、横山は追うのをやめた。歩様に異常を感じたからである。13頭立ての12着で入線した。 「何もなければいいが…」[^1] レントゲンを二度撮って、異常は見つからなかった。三度目で、左前脚に軽度の骨折が見つかる。フェブラリーステークスは回避し、放牧に出された。昆は一、二か月で治る程度のものだと語っている。 かつてこの男が砂で世界へ送り出した牝馬も、砕いたのは左前だった。あの日と違うのは、彼女が自分の脚で馬房へ帰ったことである。 この日、彼女の前を逃げ切ったインティは、翌月そのフェブラリーステークスを勝った。彼女が向かうはずだった場所には、別の馬が立った。結局、レースに戻ることはないまま、11月20日付で競走馬登録を抹消される。19戦6勝。獲得賞金2億652万2000円。
出典:サンケイスポーツ「【東海S】アンジュデジールは12着大敗 横山典「何もなければいいが…」」2019年1月20日配信、閲覧日:2026年7月26日。
天使の名を継ぐ
彼女は生まれた牧場へ帰った。浦河町、辻牧場。繁殖牝馬としての時間が始まる。 2022年4月11日、その牧場で青鹿毛の牝馬が生まれた。父はバゴ。馬主は安原浩司、預けられたのは栗東の昆貢厩舎――母とまったく同じである。名はアンジュアルディ。「力強い天使」を意味する。 2024年7月6日、函館の芝1200mの新馬戦。1番人気で3着に敗れた。鞍上は横山和生、典弘の長男である。母が八年前に1番人気で2着に敗れたのと、同じ競馬場の同じ距離だった。芝で二度走って勝てず、三戦目から砂に替わる。鞍上には横山典弘が座った。 2025年5月10日、京都のダート1800m。母がJBCレディスクラシックを勝ったのと同じ舞台で、娘は未勝利を脱した。2026年2月25日、競走馬登録を抹消している。 浦河の五月に生まれた黒鹿毛は、芝で行き場を失い、砂で名を得た。天使の欲望と名づけられた馬が最後に掴んだのは、欲望というより、自分の走れる場所そのものだったのかもしれない。その場所を教えた男は、娘の背にも同じ順路を辿らせた。牧場は、いまも浦河にある。
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