名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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アンビシャスのイメージビジュアル
アンビシャスAmbitious
Ambitious

アンビシャス

通算成績21戦5勝

獲得賞金27,249万円

生年月日 2012.02.17(平成24年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
アンビシャスの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
9 GIIピーターヤングS コーフィールド 芝1800 10人気 ウィリア
8 GIアンダーウッドS オーストラリア 芝1800 7人気 ザーラ
6 GIIダットタンチンナムS オーストラリア 芝1600 9人気 ザーラ
8 GIクイーンエリザベスS オーストラリア 芝2000 5人気 ウィリア
9 GIオーストラリアンC オーストラリア 芝2000 7人気 レーン
15 GI安田記念 東京 芝1600 5人気 横山典弘 1:32.9 上り34.8映像
5 GI大阪杯 阪神 芝2000 5人気 福永祐一 1:59.3 上り33.6映像
4 GII中山記念 中山 芝1800 1人気 C.ルメール 1:47.8 上り33.8映像
4 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 4人気 横山典弘 1:59.9 上り34.0映像
2 GII毎日王冠 東京 芝1800 3人気 C.ルメール 1:46.6 上り33.6
16 GI宝塚記念 阪神 芝2200 3人気 横山典弘 2:14.9 上り38.6映像
1 GII産経大阪杯 阪神 芝2000 2人気 横山典弘 1:59.3 上り33.4
2 GII中山記念 中山 芝1800 4人気 C.ルメール 1:45.9 上り33.6映像
5 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 4人気 M.デムーロ 1:58.6 上り33.7映像
6 GII毎日王冠 東京 芝1800 2人気 M.デムーロ 1:46.1 上り33.0映像
1 GIIIラジオNIKKEI賞 福島 芝1800 1人気 C.ルメール 1:46.4 上り34.3映像
1 OPプリンシパルS 東京 芝2000 1人気 C.ルメール 2:00.2 上り34.1
3 GIII毎日杯 阪神 芝1800 1人気 松山弘平 1:47.3 上り34.5映像
3 GIII共同通信杯 東京 芝1800 4人気 C.デムーロ 1:47.4 上り34.5映像
1 千両賞 阪神 芝1600 1人気 松山弘平 1:37.4 上り34.0
1 2歳新馬 京都 芝1600 2人気 C.ルメール 1:34.9 上り35.0

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
アンビシャスの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ディープインパクトDeep ImpactサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ウインドインハーヘアWind in Her HairAlzao
Burghclere
カーニバルソングエルコンドルパサーEl Condor PasaKingmambo
サドラーズギャルSaddlers Gal
カルニオラCarniolaRainbow Quest
Carnival Spirit
STORY

旅程 — この馬の物語

2012年生まれの黒鹿毛の牡馬。父ディープインパクト、母カーニバルソング。主な勝ち鞍はラジオNIKKEI賞・産経大阪杯。

大望のある、という名

2012年2月17日、北海道浦河町の辻牧場に一頭の黒鹿毛が生まれた。父はディープインパクト、母はカーニバルソング。母は現役時代12戦1勝——小倉の芝1200mの新馬戦を10番人気で勝ち上がったのが、生涯ただ一つの勝ち星だった。秋にはファンタジーステークスにも出ている。勝ったのは、のちにGIを3つ勝つスイープトウショウ。母は6着だった。 馬主は近藤英子。アドマイヤの冠で知られる近藤利一夫人である。だがこの黒鹿毛に冠名は付かなかった。与えられたのは、意味だけを背負った一語だった。アンビシャス——大望のある。 一つ上に、同じ父と母から生まれた全兄インターンシップがいる。兄も栗東の厩舎で走り、条件戦を2勝した。 2014年11月16日、京都の芝1600m、2歳新馬。クリストフ・ルメールを背に2番人気で勝ち上がると、暮れの阪神・千両賞は松山弘平に導かれて1番人気に応えた。二戦二勝。名前の意味に、まだ説明はいらなかった。

クラシックを走らなかった春

明けて3歳、共同通信杯。3番手で運び、直線を向いてからは伸び切れずに3着。勝ったリアルスティールとの差は0秒3、2着に入ったのはドゥラメンテだった。続く毎日杯も1番人気に推されながら、好位から抜け出せずまたも3着。前で運ぶと直線で甘くなる——デビュー当初から折り合いに難があり、脚をどう使い切らせるかが、この馬の宿題になっていた。 皐月賞に出るための賞金は足りなかった。陣営が選んだのは、ダービートライアルのプリンシパルステークス。5月9日、東京の芝2000mをルメールで完勝し、日本ダービーへの切符を手にする。だが第82回東京優駿のゲートに、アンビシャスの姿はなかった。ドゥラメンテが二冠を駆け抜けたあの春を、同期の一頭は走らずに過ごしたことになる。 秋の菊花賞にも向かわなかった。代わりに7月5日、福島のラジオNIKKEI賞。1番人気に応え、2着に0秒6の差をつけて重賞初制覇。クラシックを一度も走らないまま、彼は彼の道を歩き始めた。

古馬の海へ

2015年10月11日、毎日王冠。3歳での古馬初挑戦は、13頭立ての最後方からだった。ミルコ・デムーロが直線で追い出すと、上がり3ハロン33秒0——出走馬中で最も速い脚を使って、6着まで押し上げる。勝ったのは、逃げ切ったエイシンヒカリ。届かない位置から、届く脚だけは見せた一戦だった。 三週間後の天皇賞(秋)。4番人気で臨み、ラブリーデイから0秒2差の5着。3歳の秋にして、古馬GIの掲示板に名を載せた。この馬の器を疑う理由は、そろそろ無くなっていた。

二冠馬を、クビ差まで

2016年2月28日、中山記念。前年の天皇賞(秋)以来、四か月ぶりの実戦である。評価は4番人気。鞍上はラジオNIKKEI賞以来のルメールに戻った。後方から直線で鋭く伸びると、前を行くのは前年の二冠馬ドゥラメンテ。クビ差。届かない。だがこの日、二冠馬にいちばん近づいたのはアンビシャスだった。3着に敗れたリアルスティールは、翌月ドバイターフを制することになる。 ルメールは「チャンピオンのドゥラメンテに、あれだけ近い2着はうれしい」と笑った[^1]。陣営は、招待状が届けばドバイへ向かうつもりでいた。招待状は、届かなかった。

出典:スポーツニッポン「【中山記念】アンビシャス、ドゥラ首差追い詰め2着“次が楽しみ”」2016年2月29日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2016/02/29/kiji/K20160229012122940.html、閲覧日:2026年7月27日。

二番手の秘策 ― 最後の産経大阪杯

4月3日、阪神。第60回産経大阪杯には、キタサンブラックラブリーデイショウナンパンドライスラボニータヌーヴォレコルト——GIを勝った馬が5頭も集まった。アンビシャスは2番人気。手綱を取るのは、初コンビの横山典弘である。 作戦は騎手からの提案だった。折り合いを気にしてタメる競馬を続けてきた馬を、この日は前で走らせる。音無秀孝は馬主と相談したうえで、その戦術を了承した。 武豊のキタサンブラックがハナを切り、前半1000mは1分1秒1。アンビシャスはその二番手で、じっと我慢していた。内回りの四角を回り、後ろの馬たちが動いた瞬間にギアが入る。残り50mでキタサンブラックを捉え、クビ差でゴール板を通過した。上がりは33秒4。GIを勝った5頭を、まとめて背後に置いた重賞2勝目だった。 「ゴールドシップよりは楽でしたよ」[^1]。難しい馬だがリズムを重視して乗った、と横山は笑いながら振り返った。 そしてこの一戦が、「産経大阪杯」の名で行われた最後のレースになる。翌年からこの競走はGIに昇格し、名前も大阪杯へ改まった。最後の産経大阪杯の勝ち馬——それがアンビシャスである。

出典:スポーツニッポン「【大阪杯】アンビシャスG1馬5頭を完封!横山典の積極策決まった」2016年4月4日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2016/04/04/kiji/K20160404012337140.html、閲覧日:2026年7月27日。

六月の失速

大阪杯の日、音無はこうも言っていた。「もう少しパンとしてくれば、必ず大きなところを狙える馬」[^1]。宝塚記念には無理に向かわない、秋は毎日王冠から——そんな青写真も、その場で語られていた。 それでも6月26日、阪神の芝2200mに、アンビシャスは3番人気で立った。運びは大阪杯と同じ。三番手で四角を回った。そこから先が、続かなかった。上がり3ハロン38秒6、勝ち馬から2秒1差の16着。17頭立ての、下から二番目である。 勝ったのはマリアライト。2着に、中山記念でクビ差だったドゥラメンテ。3着に、大阪杯でクビ差退けたキタサンブラック。同じ日の同じ芝の上で、それまで首の上下で競り合ってきた相手が、揃って前にいた。

出典:スポーツニッポン「【大阪杯】アンビシャスG1馬5頭を完封!横山典の積極策決まった」2016年4月4日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2016/04/04/kiji/K20160404012337140.html、閲覧日:2026年7月27日。

あと少しの位置で

秋の始動戦、毎日王冠。ルメールで3番人気。直線でよく伸びたが、勝ったのは牝馬ルージュバックで、またもクビ差の2着だった。3着に入ったのは同じ勝負服・同じ厩舎のヒストリカルで、その鞍上は横山典弘である。 続く天皇賞(秋)は横山典弘とのコンビで、モーリスから0秒6差の4着。GIの舞台で、この馬はいつも「あと少し」の場所にいた。 2017年、5歳。中山記念は1番人気に推されて4着。GIへ昇格した大阪杯は福永祐一を背に5着で、その初代王者になったのは、一年前にクビ差退けたキタサンブラックだった。6月4日の安田記念は15着。これが日本で走った最後の一戦になる。 9月23日、JRAの競走馬登録が抹消された。国内16戦5勝、獲得賞金2億7249万7000円。GIのタイトルは、ひとつも無いままだった。

南半球の秋

移った先はオーストラリアだった。アンソニー・フリードマンの管理馬として、2018年3月10日、フレミントンのオーストラリアンカップで再びゲートに立つ。ダミアン・レーンを背に9着。 三週間後、ローズヒルのタンクレドステークス。G1、芝2400m。クレイグ・ウィリアムズは内の五番手にじっと置き、四角の手前から内を通って進出、残り200mで三番手に上がると、そこから食い下がった。前にいたのは、二年前のメルボルンカップを勝ったアルマンディン。捉えきれずに2着。豪州で二戦目、この馬は海の向こうでもG1の2着まで来た。 4月14日、ランドウィックのクイーンエリザベスステークス。この日、3馬身1/4差で連勝を25まで伸ばした牝馬の名を、ウィンクスという。アンビシャスはその8着。5月19日のドゥームベンカップでは3着に食い込んだ。南半球の一線級を相手に、彼はまだ通用していた。

大望のゆくえ

6月のブリスベンカップ4着を境に、着順はゆっくりと後ろへ下がっていく。9月のダットタンチンナムステークス6着、アンダーウッドステークス8着。2019年に入ってピーターヤングステークス9着、イースターカップ10着。管理はやがてL.スミスへ移り、暮れには西オーストラリアのアスコットまで足を延ばした。12月21日の一戦を最後に、出走の記録は途切れる。7歳の暮れだった。 続きが伝わってきたのは、それから三年あまり後のことである。レーシング・ヴィクトリアが引退競走馬の行き先を追う取り組み「オフ・ザ・トラック」の公式発信が、馬術競技馬に転じたアンビシャスの姿を伝えた。元競走馬だけが出場できる大会に、彼は出ていた。 GIのタイトルは、ついに手に入らなかった。それでも彼は、二冠馬をクビ差まで追い、GIを勝った5頭を背後に置き、南半球のG1で2着まで来た。そして走り終えたあとも、人を背に乗せて競技場に立った。大望のある、という名は、勝ち鞍の数で測る言葉ではなかったらしい。

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