名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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アルアインのイメージビジュアル
アルアインAl Ain
Al Ain

アルアイン

通算成績20戦5勝

獲得賞金51,170万円

生年月日 2014.05.01(平成26年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
アルアインの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
11 GI有馬記念 中山 芝2500 15人気 松山弘平 2:32.8 上り38.0映像
16 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 5人気 R.ムーア 1:34.9 上り35.4映像
14 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 9人気 北村友一 1:58.7 上り36.1映像
4 GI宝塚記念 阪神 芝2200 5人気 北村友一 2:11.9 上り36.1映像
1 GI大阪杯 阪神 芝2000 9人気 北村友一 2:01.0 上り35.2映像
5 GII金鯱賞 中京 芝2000 3人気 柴山雄一 2:01.0 上り35.0映像
3 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 4人気 川田将雅 1:33.5 上り34.5映像
4 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 5人気 北村友一 1:57.2 上り34.5映像
2 GII産経賞オールカマー 中山 芝2200 3人気 北村友一 2:11.2 上り34.9映像
5 GIクイーンエリザベス2世カップ シャティン 芝2000 3人気 C.デムーロ 2:01.2
3 GI大阪杯 阪神 芝2000 2人気 川田将雅 1:58.4 上り34.0映像
2 GII京都記念 京都 芝2200 3人気 川田将雅 2:16.5 上り36.2映像
7 GI菊花賞 京都 芝3000 2人気 C.ルメール 3:19.7 上り40.6映像
2 GII朝日セントライト記念 中山 芝2200 1人気 C.ルメール 2:13.0 上り33.8映像
5 GI東京優駿 東京 芝2400 4人気 松山弘平 2:27.2 上り33.7映像
1 GI皐月賞 中山 芝2000 9人気 松山弘平 1:57.8 上り34.2映像
1 GIII毎日杯 阪神 芝1800 2人気 松山弘平 1:46.5 上り34.3映像
6 GIII日刊スポシンザン記念 京都 芝1600 2人気 V.シュミノー 1:38.4 上り38.2映像
1 千両賞 阪神 芝1600 1人気 V.シュミノー 1:36.5 上り35.1
1 2歳新馬 京都 芝1600 1人気 R.ムーア 1:34.9 上り35.1

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
アルアインの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ディープインパクトDeep ImpactサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ウインドインハーヘアWind in Her HairAlzao
Burghclere
ドバイマジェスティDubai MajestyEssence of DubaiPulpit
Epitome
Great MajestyGreat Above
Mistic Majesty

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2014年生まれの鹿毛の牡馬。父ディープインパクト、母ドバイマジェスティ。主な勝ち鞍は皐月賞・大阪杯・毎日杯。

「泉」という名 ― 母が運んできた砂漠

2010年11月5日、ブリーダーズカップ・フィリー&メアスプリント。これを勝ったのは、5歳の黒鹿毛の牝馬ドバイマジェスティだった。34戦目にして初めてのGI制覇であり、それが現役最後の一戦になった。その年のアメリカ最優秀短距離牝馬として、エクリプス賞にも選ばれている。 わずか二日後の11月7日、ファシグ・ティプトンのセリで、ノーザンファーム副代表の吉田俊介が110万ドルで彼女を落札した。短距離女王は、頂点に立った直後に海を渡ることが決まった。 北海道安平町のノーザンファームで、ドバイマジェスティはディープインパクトの仔を産む。2013年に牝馬ジュベルアリ、その翌年、2014年5月1日に鹿毛の牡馬が一頭。三番仔にあたるその馬が、アルアインである。 名は、UAE・アブダビ首長国の東部にあるオアシス都市の遺跡群から採られた。ユネスコの世界遺産「アル・アインの文化的遺跡群」。アラビア語で「泉」を意味する。母の名にちなんだ命名だった。一族の名は、そうやって砂漠の地図と物語から選ばれていく。姉のジュベルアリはドバイの地名であり、四年後に生まれる全弟には、千夜一夜の王の名が与えられてシャフリヤールと呼ばれることになる。 馬主は一口馬主クラブのサンデーレーシング。1口250万円を四十口に割った募集馬だった。その一口を、元プロ野球投手の山本昌が買っている。指名を決めるまでにもう一頭と迷い、ホテルで何度もビデオを見返した末にこちらを選んだ、と後に語っている。 預けられたのは、栗東の池江泰寿厩舎だった。

ゲートの外側 ― 二〇一六年秋から毎日杯まで

2016年10月29日、京都の芝1600m。ムーアを背に1番人気でデビューし、2着に0秒1をつけて勝ち上がった。飛び上がるような発馬で、直線は鞍上の腕を頼りにするところがあった――若駒らしさを随所に残した勝ち方だった。 12月23日、阪神の千両賞。重馬場をシュミノーで運び、ラチ沿いから外回りと内回りの合流点を突いて抜け出す。1馬身差の2着に退けたのは、翌月のシンザン記念を勝つことになるキョウヘイだった。 そのシンザン記念に、アルアインは2番人気で出た。発馬でまた後手に回り、直線では落馬しかねないほどの不利を受けて6着。二連勝の勢いは、ゲートの一歩と直線の不運でほどけた。 仕切り直しは3月25日、阪神の毎日杯である。この日から鞍上が松山弘平になった。ゲートは速くなかったが二の足で二番手を奪い、逃げるテイエムヒッタマゲを直線で捉える。外から迫った1番人気の僚馬サトノアーサーを凌いで、重賞初制覇。1分46秒5、上がりは34秒3だった。 皐月賞への最終便に、ぎりぎりで間に合った。

中山、九番人気 ― 松山弘平の三十八度目

2017年4月16日、初夏を思わせる陽気の中山。18頭のうち11頭が重賞ウィナーという一戦で、注目は同じディープインパクト産駒の牝馬ファンディーナに集まっていた。アルアインの単勝は22.4倍、9番人気である。 1000m通過59秒フラット。向正面の終わりからトラストやアダムバローズが動き、クリンチャーもファンディーナもダンビュライトも押し上げて、緩みのないラップのまま直線へなだれ込む厳しい流れになった。その争いに、好位から加わっていったのがアルアインだった。 3コーナーから4コーナー、馬場の傷んだ箇所で手応えが怪しくなる。松山が懸命に前へ押し出す。持ちこたえた馬は、直線でクリンチャーとファンディーナの間を割って伸びた。追いすがるダンビュライトを突き放し、内から先に抜け出していた同厩のペルシアンナイトを、クビだけ差し返してゴール板を通過する。 1分57秒8。レースレコードだった。 「信じられない」[^1]。頬を紅潮させた松山は、そう言ってから、本当に強い馬だとパートナーを讃えた。デビュー9年目、中央のGIはこれが38回目の挑戦である。前年はGIで2着が二度あって勝ち切れず、その悔しさを知ったあとの初戴冠だった。平成生まれの騎手が中央のGIを勝ったのも、これが初めてだった。なお松山は、決勝線の手前で外側に斜行してダンビュライトの進路を妨害したとして、過怠金5万円の制裁を受けている。 その日、口取りの列に一口の出資者が並んでいた。山本昌である。クラブに申し込んで参加させてもらったのだ、という。「野球ではあんまり泣いたりしなかったけど、競馬でこんなに感動できるんだって思いました」[^2]。

出典:JRA「レース結果:2017年皐月賞(GI)」、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/satsuki/result/satsuki2017.html、閲覧日:2026年7月26日。/デイリースポーツ「アルアイン“馬主”山本昌さん 1口250万円出資…競馬でこんなに感動できるんだ」2017年5月25日配信、https://www.daily.co.jp/horse/2017/05/25/0010220630.shtml、閲覧日:2026年7月26日。

届かなかった府中と、荒れた淀

5月28日、東京優駿。距離不安を言われながら4番人気に推された。前半1000mが63秒2という超スローペースを三番手で追走する。道中でレイデオロペルシアンナイトが一気に位置を上げていく中、アルアインはその場所を守ったまま直線を向いた。上がり33秒7を使いながら、届いたのは5着まで。勝ったのはレイデオロだった。 秋は9月18日のセントライト記念から。単勝1.7倍という圧倒的な支持を受け、五番手から直線半ばで先頭に立つ。そこを外から伸びてきたミッキースワローに差し切られて2着。 10月22日、菊花賞。神戸新聞杯でレイデオロの2着に来ていたキセキに次ぐ2番人気だった。台風21号が近づき、淀は歴史的といわれる不良馬場になっていた。先団から伸びを欠いて7着。上がりは40秒6を要している。勝ったのは、その泥の中を進んだキセキである。 皐月賞から、勝ち星が遠ざかり始めていた。

掲示板の常連 ― 四歳、惜敗の年

2018年は2月11日の京都記念から始まった。鞍上は川田将雅。五番手から外を回して前を追い、クリンチャーには及ばなかったが、ダービー馬レイデオロには先着して2着に入った。 4月1日の大阪杯は2番人気。向正面で一気に先頭へ立ったスワーヴリチャードを追いかけたが差は詰まらず、外から来たペルシアンナイトにも交わされて3着。 4月29日、初めて海を渡った。シャティンのクイーンエリザベス2世カップ。クリスチャン・デムーロを背に、ダンビュライトとともに遠征したが、直線で伸びを欠いて5着に終わる。勝ったのは地元のパキスタンスターだった。 秋、9月23日のオールカマーから北村友一とのコンビが始まる。二番手から直線で一度は先頭に立ちながら、内からレイデオロにクビ差だけ交わされて2着。10月28日の天皇賞(秋)はGI馬が七頭そろう一戦で、逃げるキセキを二番手から追い、勝ったレイデオロから0秒4差の4着。11月18日、三歳春のシンザン記念以来となるマイル戦のマイルチャンピオンシップでは、川田を背に先団から粘り、内から伸びたステルヴィオペルシアンナイトに差されて3着だった。 この年の六戦は、2着が二度、3着が二度、4着が一度、そして香港での5着。実績のある競馬場では上位を争い、初めて走る舞台では入着を逃す。好走できる条件は、はっきりと分かれてきていた。それでいて、勝てない。惜敗が続く理由は、最後の最後にふっと気を抜いてしまう性格にある、と言われていた。

ステッキを入れない ― 大阪杯、十四年目の男

2019年の初戦は3月10日の金鯱賞だった。北村友一が乗る予定だったが、落馬負傷のために柴山雄一へ乗り替わる。このレースからブリンカーを着けた。3番人気で5着。勝ったのはダノンプレミアムである。 3月31日、阪神。北村が戻ってきた。14頭のうち8頭がGI馬という顔ぶれで、アーモンドアイレイデオロはドバイへ発っていて不在だった。前年3着の実績がありながら、アルアインの単勝は22.2倍、9番人気にとどまっている。発表は良馬場だが、前日から当日の昼まで稍重で、パワーの要る芝だった。 エポカドーロがハナを切り、キセキがぴたりとマークする。北村はすかさず好位の内へ潜り込ませ、向正面から3コーナー、4コーナーと、ひたすらその場所で力を溜めた。前半1000mは61秒台。直線の入口で満を持して追い出されたアルアインは、残り200mで先頭に立つ。粘るキセキを外に、急追するワグネリアンを内に従えて、ゴールへ飛び込んだ。1着から5着までが0秒2の中にひしめいていた。 北村は勝ったあと、馬の気分を損ねないよう気をつけた、と振り返っている。展開が読みやすかったこと、三番枠が良かったこと、ブリンカーが二度目で慣れたらしく、いい位置でじっとしていられたこと。そして、抜け出したあとも馬の気分を害さないようにステッキは入れなかったこと。最後にふっと気を抜く癖のある馬を、鞭で急かさずに勝たせたのである。 皐月賞から、およそ二年ぶりの勝利だった。 「騎手を14年やってきて正直、ケガもありましたし本当に色々なことがあって、長かったなと思います」[^1]。デビュー14年目、GIへの騎乗は46度目。前年の暮れに川崎の全日本2歳優駿を勝ってはいたが、JRAのGIはこれが初めてだった。ウイニングランを終えて戻ってきた北村は、初めてGIを勝った騎手には見えないほど冷静だった。池江泰寿に涙は出ないのかと促されても、涙は出なかったという。うまく行き過ぎて、勝った実感よりも先にレースのことで頭がいっぱいだった、と本人は語っている。 池江にとっては、2009年のドリームジャーニー、2013年のオルフェーヴルに続く大阪杯3勝目であり、このレースがGIに昇格してからは初めての優勝でもあった。

出典:スポーツナビ「北村友「唐突過ぎて」46戦目のGI初戴冠 2度目覚醒アルアイン1600〜2400も視野」2019年3月31日配信、https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201903310003-spnavi、閲覧日:2026年7月26日。

大外十六番 ― 五歳の秋、そして中山

6月23日の宝塚記念には、ファン投票四位の票を集めて出走した。好スタートから三番手。直線で前のキセキリスグラシューに離され、外からスワーヴリチャードにも交わされて4着。勝ったのはリスグラシューだった。 秋初戦の天皇賞(秋)は、GI馬が十頭そろう一戦になった。16頭立ての大外、16番枠。距離のロスに高速の決着が重なり、直線で失速して14着。二桁の着順は、これが初めてだった。先頭でゴールを駆け抜けたのはアーモンドアイである。 11月17日のマイルチャンピオンシップでは、デビュー戦以来となるムーアが手綱を取ったが16着。もう少し前で運びたかった、今回のマイルは忙しかった、とムーアは振り返っている。 12月4日、サンデーレーシングが発表した。有馬記念を最後に引退し、翌年からブリーダーズ・スタリオン・ステーションで種牡馬になる、と。 12月22日、中山。引退レースの鞍上は松山弘平だった。二人が組むのは、2017年のダービー以来である。15番人気で好位を進み、直線で一杯になって11着。松山は、この舞台に連れてきてくれた関係者と馬に感謝している、スタートも良く最後までしっかり頑張ってくれた、と話した。 12月27日、競走馬登録抹消。20戦5勝、中央での獲得賞金は5億1170万2000円。五つの勝ち鞍のうち二つがGIで、その二つはどちらも、9番人気からのものだった。

泉は涸れない

2020年、アルアインは日高町のブリーダーズ・スタリオン・ステーションで種牡馬になった。 2024年3月3日、中山の弥生賞ディープインパクト記念を、コスモキュランダという黒鹿毛が勝った。父はアルアインである。その仔は翌月、父が七年前にレコードで駆け抜けたのと同じ中山の芝2000mへ向かい、皐月賞で2着に入った。父が立った場所の、あと一歩手前まで。2026年4月26日には、牝馬のラフターラインズがフローラステークスを勝っている。 母ドバイマジェスティの血は、ほかの子でも走り続けた。全姉のジュベルアリは一度も競走に出ないまま繁殖に上がり、その仔アルナシームが2024年の中京記念と2025年の中山金杯を勝った。そして全弟のシャフリヤールは、2021年3月27日に毎日杯を勝つ。兄が四年前に重賞初制覇を挙げたのと、同じレースだった。二か月後の5月30日、その弟は東京優駿を勝った。兄が三番手のまま5着に終わった、あの2400mである。翌年にはドバイシーマクラシックも制した。兄弟で、クラシックを一冠ずつ分け合ったことになる。 人のほうにも続きがあった。北村友一は2021年5月、阪神のレース中に落馬して椎体と右肩甲骨を折り、のちに背骨の骨折がさらに見つかって、復帰まで一年以上を要した。2022年6月にターフへ戻り、2025年6月1日、クロワデュノールで東京優駿を勝つ。デビュー20年目のクラシック初制覇だった。松山弘平は2020年にデアリングタクトで牝馬三冠を無敗のまま制し、2026年5月31日、ロブチェンで11度目のダービー騎乗にして府中の頂に立った。アルアインが届かなかった府中の2400mを、あの日の二人が、それぞれ別の馬で獲ったことになる。 アルアイン自身は、2025年にブリーダーズ・スタリオン・ステーションを退厩し、シンジケートの解散を経て、2026年から新冠の白馬牧場で種牡馬を続けている。同年2月の展示会に、その姿がある。 砂漠のオアシスの名を持つ馬は、走った三年あまりのあいだに二つのGIを獲り、二人の騎手に初めての中央GIを渡した。泉というのは、汲まれるためにある。

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