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エアメサイア
通算成績12戦4勝
獲得賞金3億3,553万円
生年月日 2002.02.04(平成14年)毛色 鹿毛性 牝
全成績
主要戦績(抜粋)・新しい順| 年月日 | 着順 | レース | コース | 人気 | 騎手 | タイム | 上り3F | 映像 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2 | GIヴィクトリアマイル | 東京 芝1600 | 3人気 | 武豊 | 1:34.2 | 上り33.4 | 映像 | |
| 2 | GIIサンスポ杯阪神牝馬S | 阪神 芝1400 | 2人気 | 武豊 | 1:21.7 | 上り35.9 | — | |
| 3 | GII中山記念 | 中山 芝1800 | 4人気 | 武豊 | 1:50.0 | 上り36.3 | — | |
| 5 | GIエリザベス女王杯 | 京都 芝2200 | 1人気 | 武豊 | 2:13.2 | 上り33.4 | 映像 | |
| 1 | GI秋華賞 | 京都 芝2000 | 2人気 | 武豊 | 1:59.2 | 上り34.2 | 映像 | |
| 1 | GII関西TVローズS | 阪神 芝2000 | 2人気 | 武豊 | 2:00.1 | 上り34.2 | — | |
| 2 | GI優駿牝馬 | 東京 芝2400 | 2人気 | 武豊 | 2:28.8 | 上り33.8 | 映像 | |
| 4 | GI桜花賞 | 阪神 芝1600 | 3人気 | 武豊 | 1:33.9 | 上り34.7 | 映像 | |
| 3 | GIIフィリーズレビュー | 阪神 芝1400 | 3人気 | 武豊 | 1:21.3 | 上り34.7 | — | |
| 1 | OPエルフィンS | 京都 芝1600 | 2人気 | 武豊 | 1:36.0 | 上り34.3 | — | |
| 2 | 白梅賞 | 京都 芝1600 | 2人気 | 武豊 | 1:36.8 | 上り34.8 | — | |
| 1 | 2歳新馬 | 京都 芝1600 | 1人気 | 武豊 | 1:38.0 | 上り35.8 | — |
血統
金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ| 父サンデーサイレンスSunday Silence | Halo | Hail to Reason |
| Cosmah | ||
| Wishing Well | Understanding | |
| Mountain Flower | ||
| 母エアデジャヴー | ノーザンテーストNorthern Taste | Northern Dancer |
| Lady Victoria | ||
| アイドリームドアドリームI Dreamed a Dream | Well Decorated | |
| Hidden Trail |
旅程 — この馬の物語
2002年生まれの鹿毛の牝馬。父サンデーサイレンス、母エアデジャヴー。主な勝ち鞍は秋華賞・関西TVローズS。
救世主という名前
2004年11月21日、京都の芝1600メートル。二歳の新馬戦に、単勝1.4倍の一番人気で鹿毛の牝馬が出てきた。鞍上は武豊。逃げた馬のすぐ後ろにつけ、直線で抜け出して一馬身半。1分38秒0だった。 名前をエアメサイアという。「エア」は馬主・ラッキーフィールドの冠名で、この馬主の馬はみなこの二文字から始まる。問題はそのあとだ。メサイア——救世主。三歳になる前の牝馬に負わせるには、ずいぶん大きな言葉である。 大きくなる理由はあった。母はエアデジャヴー。1998年に桜花賞三着、優駿牝馬(オークス)二着、秋華賞三着。クラシックの舞台に三度立って、三度とも勝ち馬の背中を見た馬である。獲ったタイトルは秋のクイーンステークス一つきりだった。母の半弟、つまりこの馬の叔父にあたるのがエアシャカールで、こちらは2000年に皐月賞と菊花賞を勝っている。乗っていたのは、やはり武豊だった。全兄のエアシェイディも、のちにアメリカジョッキークラブカップを獲る。翌年に生まれる全妹エアマグダラの牝系からは、ずっとあとに大阪杯馬ベラジオオペラが出る。牡馬は獲っていた。牝馬が、獲れていなかった。 預かったのは栗東の伊藤雄二。マックスビューティ、シャダイカグラ、エアグルーヴ、ファインモーション——牝馬でクラシックを勝ちつづけ、「牝馬づくりの名人」と呼ばれた調教師である。この新馬戦の時点で六十七歳。定年まで、あと二年と少ししか残っていなかった。 母エアデジャヴーを預かっていたのは、美浦の伊藤正徳。雄二の義弟である。牝馬の一族と、それを預かる人間の一族が、東と西に分かれて並んで走っていた。
母と同じ二着
三歳の初戦、京都の白梅賞はディアデラノビアに0秒3離されて二着。次のエルフィンステークスを勝ち、フィリーズレビューは三着だった。勝ったのはラインクラフト。この名前が、以後ずっと隣にいることになる。 桜花賞は速かった。前半の三ハロン——最初の600メートルが33秒8。二つ目のハロンで十秒台が刻まれる流れの中で、エアメサイアは中団より後ろにいた。直線で34秒7の脚を使ったが、届いたのは四着まで。勝ったラインクラフトから一馬身四分の三。二着はシーザリオ、三着はデアリングハートで、この世代の名前がそこにひととおり揃っていた。 七年前、母は同じ阪神の桜花賞に九番人気で出て、メンバーで最も速い脚を使い、三着に飛び込んでいる。娘は三番人気で四着だった。血の再現というには、母のほうがうまくやっている。 優駿牝馬は違った。東京の2400メートル、道中に十三秒台がいくつも並ぶ緩い流れ。四コーナーを七番手あたりで回り、直線で前を一頭ずつ捕らえていく。ゴール前、先頭を争う位置まで出た。 そこへ外から来たのがシーザリオである。四コーナーでは十番手より後ろにいた馬が、ゴール板の手前で並びかけ、そのまま差し切った。クビ差。時計は2分28秒8で、二頭は同じだった。 母エアデジャヴーは、1998年の優駿牝馬に二番人気で出て、二着だった。娘も二番人気で、二着だった。母の名は、既視感という意味である。
阪神、九月
秋の始動は9月18日のローズステークス。462キロ、前走のオークスから八キロ減っての出走だった。一番人気はラインクラフト、二番人気がエアメサイア。 四コーナーを六番手あたりで回り、先に抜け出したラインクラフトを追った。捕らえたのはゴールの直前で、着差は二分の一馬身。重賞は、これが初勝利である。 ひと月後、京都に同じ二頭が並んだ。単勝1.8倍のラインクラフト、2.5倍のエアメサイア。三番人気のデアリングハートは20.6倍まで離れている。十八頭が枠に入っていたが、見られていたのは、ほとんどこの二頭だけだった。
一完歩ずつ
前日からの雨は明け方にあがり、京都の芝は良に戻っていた。内回りの2000メートル。エイシンテンダーが先頭に立ち、隊列が決まる。 二つ目のハロンだけが速く、そこからは似たような時計が四つ続いた。流れは落ち着いている。ラインクラフトは、行きたがるのを鞍上になだめられながら、逃げ馬の五、六番手。エアメサイアは、もっと後ろの馬群の中にいた。前に十頭以上を置いた位置である。 三コーナー。ラインクラフトが少しずつ位置を上げはじめる。エアメサイアも、馬群の中をするすると押し上げていく。四コーナーを曲がり終えたところで、ようやく先行集団が射程に入った。 流れが変わるのは残り八百からだ。一ハロンごとに時計が速くなっていく。ゴールまで四百を切ってからの一ハロンが、11秒3。終盤ではいちばん速い一ハロンである。ラインクラフトは直線の入口で先頭に立ち、そこから一気に脚を伸ばす。京都の内回りの直線は短い。先に抜け出した馬がそのまま出ていってしまうには、十分な短さである。 最後の二百メートルで、先頭の時計が落ちた。速い一ハロンを二つ重ねたあとの鈍りである。鈍った分だけ、後ろの馬に距離が渡る。 エアメサイアは、一完歩ずつ詰めた。三完歩でも五完歩でもなく、一完歩ずつだった。並んだのはゴール板の直前で、前に出たのはその一完歩ぶん。クビ差。 三着は、そこから三馬身うしろにいた。この決着に関われた馬は、二頭しかいなかった。 この馬の母は、桜花賞でも、優駿牝馬でも、そしてこの秋華賞でも、勝てなかった側にいた。娘はここで、勝った側に立った。
三度ずつ
続くエリザベス女王杯で、デビュー戦以来、二度目の一番人気に推された。京都の2200メートル。ところが道中で位置が取れず、四コーナーでは後ろから数えたほうが早いところにいた。直線で使った脚は、レース全体の上がりより一秒以上速い。それでも五着までしか上がれなかった。勝ったのはスイープトウショウで、着差は0秒7。脚は足りていて、位置が足りなかった。 年が明けて中山記念。重馬場の1800メートルで、バランスオブゲーム、皐月賞馬ダイワメジャーに続く三着。4月の阪神牝馬ステークスは1400メートル、最初の600メートルが33秒8という忙しい流れになった。五十七キロを背負って二着。勝ったのはラインクラフトである。 5月14日、第一回のヴィクトリアマイル。十八頭立ての大外十八番を引いた。稍重の東京マイルで、四コーナーは十番手より後ろ。直線でまた、レースの上がりより速い脚を使った。それでも、一枠一番から内で粘ったダンスインザムードに一馬身四分の一届かない。いちばん外にいた馬が、いちばん内にいた馬に届かない。マイルは、それを許してしまう長さだった。 ラインクラフトとは、これで六度走り合ったことになる。先に入ったのは三度ずつだった。フィリーズレビューと桜花賞と阪神牝馬ステークスは向こうが前、ローズステークスと秋華賞とこのヴィクトリアマイルはこちらが前。決着はつかないまま終わる。その夏、8月19日にラインクラフトが世を去ったからである。四歳だった。 エアメサイアのほうは、ヴィクトリアマイルのあとに爪の不安が出て、長い休養に入っていた。母エアデジャヴーは四歳になってから一度も勝っていない。叔父エアシャカールも同じだった。娘もまた、四歳では勝てなかった。 復帰することは、なかった。
九月十二日
2007年2月28日、伊藤雄二の調教師免許が切れた。定年である。同じ日付で、エアメサイアの競走馬登録も抹消された。四十一年つづいた厩舎の最後に、この牝馬が立っていた。伊藤がGIを勝ったのは、あの秋華賞が最後になった。 生まれ故郷の社台ファームに戻り、繁殖牝馬になる。キングカメハメハとの間に生まれた四番仔がエアスピネル、五番仔がエアウィンザー。全兄弟で、どちらものちに重賞を勝つ。だが母は、その走りを見ていない。エアスピネルが一歳、エアウィンザーが当歳だった2014年9月12日、放牧中の事故で死んだ。十二歳である。 ちょうど一年後の2015年9月12日、阪神の第五レース。芝1600メートルの新馬戦に、エアスピネルが出てきた。三番手を進んで直線で抜け出し、二馬身差で勝つ。鞍上は武豊。厩舎は栗東の笹田和秀——伊藤雄二の娘婿で、二十四年にわたってその厩舎の調教助手を務めた男である。人の一族のほうも、まだ並んで走っていた。 12月の朝日杯フューチュリティステークス。エアスピネルは一番人気で、これを勝てば武豊はJRAの平地GIをすべて勝ったことになる、という一戦だった。直線で先頭に立つ。そこへ十五番手から一頭が飛んできて、残りわずかで前に出た。四分の三馬身。差した馬はリオンディーズといい、母をシーザリオという。十年前の東京で、直線を抜け出したエアメサイアをゴール前で差し切った馬である。厩舎も、あのときと同じ角居勝彦だった。 この血は、いつも少しだけ遅れて着く。母のオークスも、娘のオークスも、その息子の朝日杯も、先に前へ出たのは向こうだった。 一度だけ、違った日がある。武豊はもともと、母を負かした側の人間だった。1998年の秋華賞、彼はファレノプシスの背にいて、一番人気のエアデジャヴーを三着に置いていっている。七年後の同じ十月、同じ京都で、彼は娘の背にいた。届かない血の物語に、両側を知っている男が一人だけ混じっていたことになる。 京都の内回りの直線は短い。短いから、間に合わないほうが普通だった。あの日だけ、間に合った。
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