名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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アエロリットのイメージビジュアル
アエロリットAerolithe
Aerolithe

アエロリット

通算成績19戦4勝

獲得賞金49,764万円

生年月日 2014.05.17(平成26年)毛色 芦毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
アエロリットの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
14 GI有馬記念 中山 芝2500 12人気 津村明秀 2:35.0 上り42.1映像
3 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 6人気 戸崎圭太 1:56.7 上り34.8映像
2 GII毎日王冠 東京 芝1800 2人気 津村明秀 1:44.6 上り34.5映像
2 GI安田記念 東京 芝1600 3人気 戸崎圭太 1:30.9 上り33.9映像
5 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 2人気 横山典弘 1:30.9 上り34.8映像
9 GIペガサスWCT アメリカ 芝1900 5人気 ジェルー
12 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 2人気 R.ムーア 1:33.8 上り35.0映像
1 GII毎日王冠 東京 芝1800 1人気 J.モレイラ 1:44.5 上り33.8映像
2 GI安田記念 東京 芝1600 5人気 戸崎圭太 1:31.3 上り34.0映像
4 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 3人気 戸崎圭太 1:32.4 上り34.0映像
2 GII中山記念 中山 芝1800 5人気 横山典弘 1:47.6 上り36.2映像
7 GI秋華賞 京都 芝2000 1人気 横山典弘 2:01.4 上り37.9映像
1 GIIIクイーンS 札幌 芝1800 2人気 横山典弘 1:45.7 上り35.5映像
1 GINHKマイルカップ 東京 芝1600 2人気 横山典弘 1:32.3 上り34.3映像
5 GI桜花賞 阪神 芝1600 6人気 横山典弘 1:34.7 上り35.0映像
2 GIIIデイリー杯クイーンカップ 東京 芝1600 5人気 横山典弘 1:33.3 上り33.9映像
2 GIIIフェアリーS 中山 芝1600 1人気 横山典弘 1:34.8 上り36.4映像
2 サフラン賞 中山 芝1600 1人気 横山典弘 1:34.9 上り35.6
1 2歳新馬 東京 芝1400 2人気 横山典弘 1:22.8 上り33.5

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
アエロリットの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
クロフネKurofuneフレンチデピュティFrench DeputyDeputy Minister
Mitterand
ブルーアヴェニューBlue AvenueClassic Go Go
Eliza Blue
アステリックスネオユニヴァースNeo UniverseサンデーサイレンスSunday Silence
ポインテッドパスPointed Path
アイルドフランスIsle de FranceNureyev
ステラマドリッドStella Madrid
STORY

旅程 — この馬の物語

2014年生まれの芦毛の牝馬。父クロフネ、母アステリックス。主な勝ち鞍はNHKマイルC・クイーンS・毎日王冠。

隕石という名 ― 二〇一四年五月十七日

2014年5月17日、北海道安平町のノーザンファームで、芦毛の牝馬が生まれた。父はクロフネ、母はアステリックス。(有)サンデーレーシングの所有馬として、美浦の菊沢隆徳厩舎へ入ることになる。 与えられた名は、アエロリット。フランス語で隕石を意味する語である。 母のアステリックスは2010年生まれの黒鹿毛で、ゲートに入ったのは生涯で一度きりだった。2012年6月10日、東京の芝1800メートル、5番人気で8着。それが競走馬としてのすべてである。走らなかった母が、走る娘を産んだ。 その上は厚い。母の母は1995年アメリカ生まれのアイルドフランス。パリを囲むフランスの地方の名を持つ、ヌレイエフの娘である。3代母は1987年生まれのステラマドリッド。父アリダー、母マイジュリエット。この牝系はアメリカから安平へ渡り、日本のマイルの舞台に何頭もの馬を送り出してきた。 同じ3代母を持つ近親に、ミッキーアイルがいる。2014年のNHKマイルカップと2016年のマイルチャンピオンシップを勝った馬で、その母スターアイルとアエロリットの母アステリックスは、ともにアイルドフランスの娘――つまり半姉妹である。もう一頭、3代母をステラマドリッドとする近親に、2017年の阪神ジュベナイルフィリーズ、2019年と2020年のエリザベス女王杯、2020年の大阪杯を制したラッキーライラックがいる。数年後、彼女とは同じゲートに入ることになる。 半妹もいる。2015年9月14日にオーストラリアで生まれた、父ロードカナロアのエイコンドライト。エイコンドライトとは、球粒組織を持たない石質隕石の分類名である。この一族の名は、空から降ってくる石で揃えられていた。 そして父のクロフネは、2001年のNHKマイルカップの勝ち馬である。芦毛も、府中のマイルも、父から来た。

六三九勝の、まだ手にしていないもの

菊沢隆徳は1970年2月10日、千葉県に生まれた。1988年、競馬学校の4期生として美浦・柄崎義信厩舎からデビューする。以後22年、9478回ゲートをくぐって639勝。重賞は10勝した。GI初騎乗は1993年の天皇賞(秋)、17頭立て17番人気のゴールデンアイで4着に粘っている。関東のフェアプレー賞を五度受け、2000年にはアイルランドへ渡ってエイダン・オブライエン厩舎の管理馬に日本人として初めて実戦で騎乗した。技術を認められ、下積みの調教を任される類の騎手だった。 GIは、ついに勝てなかった。2010年2月に調教師免許試験に合格し、同月28日をもって騎手を退く。2011年3月1日、厩舎を開業した。 身内には騎手が多い。妻の父は元騎手の横山富雄、義兄は横山典弘。長男の菊沢一樹も騎手になった。 2016年6月19日、東京の芝1400メートル。アエロリットのデビュー戦の鞍上は、その義兄・横山典弘だった。2番人気。2番手できれいに折り合い、1分22秒8で力強く抜け出す。横山は、真面目で大人びたレースをした、今後が楽しみだ、と称えた。菊沢のほうは、この馬の速さをどう抑えるかを語っている。 「やれば出ちゃうので、調教でもスピードが出過ぎないようにしてきた」[^1] 速さを出させない調教。この一言が別の意味を持つまでには、二年と少しかかる。 10月2日、中山のサフラン賞。1番人気で好位から一旦は先頭に立ったが、後方から来たトーホウアイレスにハナ差だけかわされた。年が明けて1月8日のフェアリーステークス、1番人気。2番手から抜け出したところをライジングリーズンに強襲されて、また2着。2月11日のクイーンカップ、5番人気。アドマイヤミヤビとの叩き合いに屈して、三戦続けての2着。 4月9日、桜花賞。稍重の阪神で6番人気、レーヌミノルから0秒2差の5着だった。 デビューから五戦、勝ったのは最初の新馬戦だけで、うち三度は二着に終わっていた。

出典:スポーツニッポン「【東京新馬戦】アエロリットが力強く抜け出しV「今後が楽しみ」」2016年6月20日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2016/06/20/kiji/K20160620012812660.html 、閲覧日:2026年7月26日。

五月七日、府中 ― 隕石が落ちる

2017年5月7日、NHKマイルカップ。18頭立ての8枠16番、2番人気。 ゲートは、飛び出すようなスタートだった。横山典弘はそこから控え、好位の外に入れる。ハナを切ったのはボンセルヴィーソ、前半800メートルの通過は46秒1。四つ角を手応え十分で回り、直線は馬場の四分どころに進路を取った。残り400メートルから追い出すと、残り200メートルで先頭。外から13番人気のリエノテソーロが襲いかかってきたが、もう一度伸びて突き放し、1馬身1/2差でゴールへ飛び込んだ。1分32秒3。1番人気カラクレナイは17着に沈んでいる。 重賞初制覇が、GIだった。 2着のリエノテソーロも牝馬である。前年の勝ち馬メジャーエンブレムも牝馬で、しかも同じサンデーレーシングの勝負服だった。このレースを牝馬が勝ったのは、1997年のシーキングザパール、2005年のラインクラフト、2007年のピンクカメオ、前年のメジャーエンブレムに続く五度目。そして2026年の第31回まで、牝馬の優勝はこれが最後になっている。 十六年前の2001年、同じ府中のマイルでこのレースを勝った馬がいる。クロフネ。父が勝った場所で、娘が勝った。 横山典弘にとっては1999年のシンボリインディ、2015年のクラリティスカイに続く、このレース三度目の優勝である。 そして菊沢隆徳にとっては、9478回ゲートをくぐっても届かなかったものが、初めて手のなかにあった。開業から七年目、GIの初勝利だった。

札幌の大逃げ、京都の泥

7月30日、札幌のクイーンステークス。3歳牝馬で52キロ、相手にはその年のヴィクトリアマイルを勝ったアドマイヤリードがいた。 好スタートから先頭に立つと、そのまま後続を引き離していく。大逃げの形である。四つ角を手応え十分で回り、追い込んでくるトーセンビクトリーを寄せつけずに0秒4差の完勝。1分45秒7で重賞2勝目を挙げた。 この日、初めて彼女の前に一頭もいなかった。 10月15日、秋華賞。京都の芝2000メートル、重馬場。初めての1番人気で、1枠1番。逃げるカワキタエンカを2番手に見ながら運んだが、直線で伸びを欠き7着に終わる。掲示板を外したのは、これが最初だった。菊沢は重馬場を敗因に挙げている。 三歳の一年は六戦して二勝。そのうちの一勝がGIで、もう一勝が大逃げだった。

落鉄と、逃げるという答え ― 二〇一八年

始動は2月25日の中山記念。ペルシアンナイトヴィブロスといったGI馬が顔を揃えたなかで5番人気に落ちたが、中山を得意とするウインブライトにクビ差まで迫る2着に健闘した。 5月13日、ヴィクトリアマイル。ここまで手綱を取り続けてきた横山典弘は、同じレースのミスパンテールに騎乗することが決まっており、戸崎圭太に乗り替わった。3番人気。稍重の東京で向正面から先団まで上がり、直線も脚を伸ばしたが、ジュールポレールから0秒1差の4着。レースのあとで、左前の落鉄が判明する。 6月3日、安田記念。強豪の牡馬が集まり5番人気。コースレコードタイという淀みない流れを3番手で追い、ゴール200メートル手前で先頭に立った。差し切ったのはモズアスコットである。またも2着。菊沢は映像を見返し、直線を向いた時点で右前の蹄鉄がなかったこと、この馬は踏み込みが強いために蹄鉄が引っ掛かるのではないかということを明かした。二戦続けて、彼女は蹄鉄を一枚失って走っていた。 10月7日、毎日王冠。鞍上はモレイラ。13頭のなかでただ一頭の牝馬でありながら1番人気に推された。好スタートから、この日は一度も先頭を譲らない。2着ステルヴィオに1馬身1/4差をつけて逃げ切り、重賞3勝目を飾った。 デビュー戦で「スピードが出過ぎないように」と抑えられていた馬が、抑えることをやめた日である。以後、海外遠征の一戦を除いて、引退までのすべてのレースで彼女は先頭に立つことになる。 11月18日、マイルチャンピオンシップ。京都で2番人気。先頭に立って引っ張ったが、直線半ばで後続に飲まれ12着に大敗した。鞍上のムーアは、右回りでは苦しいのかもしれないと述べている。この時点での四つの勝ち鞍のうち、三つは東京の芝だった。

時計を作った馬 ― 二〇一九年

1月26日、フロリダのガルフストリームパーク。この年に創設されたペガサスワールドカップターフに、鞍上ジェルーを迎えて臨んだ。重馬場の1900メートル。2番手を追走したが3コーナーを過ぎて手応えがなくなり、10頭中9着。生涯でただ一度の海外遠征だった。 5月12日、ヴィクトリアマイル。横山典弘が戻ってきた。1番人気は、3代母を同じくするラッキーライラック。アエロリットは2番人気である。押して押してハナを奪い、前半800メートルを44秒8で通過した。四つ角でのリードは3馬身。残り150メートルで捕まり、外の四頭に差されて5着に終わる。勝ったノームコアの1分30秒5は、東京のマイルのコースレコードを0秒8も縮める時計だった。ラッキーライラックは4着だった。 6月2日、安田記念。1枠2番、3番人気。前年の年度代表馬アーモンドアイと、金鯱賞・マイラーズカップを連勝したダノンプレミアムの二強対決と言われた一戦である。スタート直後の斜行で有力二頭が最後方に置かれるなか、内からハナを奪い、前半800メートル45秒8のややゆったりした流れに持ち込んだ。直線、残り200メートルまで先頭を守る。しかし馬場の四分どころからインディチャンプが鋭く伸び、クビ差だけ先にゴールへ入った。1分30秒9のレースレコード。そのハナ差うしろ、3着に上がり32秒4で追い込んできたのがアーモンドアイである。二年続けての2着だった。 10月6日、毎日王冠。戸崎はダノンキングリーに騎乗することが決まり、初コンビの津村明秀を迎えた。2番人気。ハナを切って前半1000メートルを58秒5。直線半ばで一度インディチャンプに交わされながら差し返したが、最後は外からダノンキングリーに差し切られて2着だった。 10月27日、天皇賞(秋)。16頭のうち10頭がGIウィナーという顔ぶれで、2000メートルの実績がないぶん6番人気まで評価を落とした。戸崎圭太が戻る。好スタートからじんわりと出て単騎の先頭に立ち、前半1000メートルを59秒0で通過した。直線に入ってのリードは1馬身。残り300メートル、ラチ沿いに舵を切ったアーモンドアイが、彼女の内側から一瞬にして前へ出た。外ではサートゥルナーリアダノンプレミアムが並んでくる。そのサートゥルナーリアを差し返し、ダノンプレミアムとの2着争いにクビ差だけ及ばず3着。勝ち時計は1分56秒2だった。 「馬がタフ。いつも惜しいけど頑張っている」[^1] 戸崎の言葉である。この年、彼女がハナを切った五つのレースのうち二つがレコード決着になり、ほかの二つもレコードまで0秒2以内の時計で終わった。速い時計は、いつも彼女の前半から始まっていた。

出典:スポーツニッポン「【天皇賞・秋】アエロリット 小細工なしで逃げた3着 菊沢師「よく頑張った」」2019年10月28日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2019/10/28/kiji/20191027s00004048483000c.html 、閲覧日:2026年7月26日。

有馬記念、そして安平へ

引退レースは有馬記念に決まった。ファン投票は18位、2万6180票。戸崎圭太が落馬負傷で長期の休養に入っていたため、毎日王冠と同じく津村明秀が手綱を取る。デビュー16年目、32度目のGI挑戦だった。千葉県船橋市に生まれ、1994年にナリタブライアンが勝った有馬記念を見て騎手を志した男である。 12月22日、中山の芝2500メートル。8枠15番から出て、迷わずハナへ。前半1000メートルを58秒台前半で通過し、2番手に5馬身以上の差をつけて逃げた。4コーナーで飲み込まれ、14着。勝ったリスグラシューの時計は2分30秒5だった。津村は、馬は一生懸命よく頑張ってくれた、と振り返っている。 12月27日付で競走馬登録を抹消。19戦4勝、2着7回、3着1回、獲得賞金4億9764万8900円。生まれた安平のノーザンファームへ帰り、繁殖牝馬になった。 2021年1月20日、初仔が生まれた。父ドゥラメンテ、鹿毛の牡。名はコンドライト――球粒組織を持つ石質隕石の分類名である。母と同じ菊沢隆徳厩舎に入り、2023年9月の新馬戦でクリストフ・ルメールを背に2着。七戦して勝ち上がれないまま、2024年8月の札幌を最後にターフを去った。最後の二戦の鞍上は横山武史。菊沢にとっては甥にあたる。 2023年生まれのアエログラム(父シルバーステート)も、2024年生まれの芦毛の牝イルリサット(父キズナ)も、やはり菊沢厩舎の所属である。イルリサットはまだゲートに入っていない。2025年には、父イクイノックスの牡が生まれた。母のGIを勝たせた厩舎が、その子どもたちを預かり続けている。 名前も続いている。半妹のエイコンドライトは繁殖牝馬となり、その仔にはダイオジェナイトの名がついた。エイコンドライトに含まれる、隕石のさらに細かい分類の名である。空から降ってきた石の名が、母から娘へ、娘から仔へと分岐していく。 母アステリックスは、一度しかゲートに入らなかった。その娘は十九回入り、四度勝ち、七度は二着だった。 二〇一九年の府中のマイルに刻まれた二つのレコードは、どちらも彼女が先頭で作った流れの上に立っている。先頭を走る馬は、自分のためだけに走るのではない。安平の牧場に、その芦毛はいまもいる。

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