名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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アドマイヤリードのイメージビジュアル
アドマイヤリードAdmire Lead
Admire Lead

アドマイヤリード

通算成績24戦6勝

獲得賞金24,413万円

生年月日 2013.03.18(平成25年)毛色 青鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
アドマイヤリードの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
10 GIII中山牝馬S 中山 芝1800 4人気 横山典弘 1:48.1 上り35.2映像
4 GIII中山金杯 中山 芝2000 8人気 横山典弘 1:59.3 上り35.2映像
1 OPディセンバーS 中山 芝1800 3人気 横山典弘 1:48.1 上り34.4
14 GIエリザベス女王杯 京都 芝2200 11人気 藤岡康太 2:14.1 上り34.5映像
7 GII府中牝馬ステークス 東京 芝1800 9人気 田辺裕信 1:45.3 上り32.7映像
8 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 2人気 M.デムーロ 1:33.0 上り33.7映像
4 GIIサンスポ杯阪神牝馬S 阪神 芝1600 3人気 M.デムーロ 1:34.9 上り33.6映像
12 GIII東京新聞杯 東京 芝1600 6人気 藤岡康太 1:34.7 上り33.9映像
3 GII府中牝馬ステークス 東京 芝1800 2人気 戸崎圭太 1:48.3 上り32.9映像
6 GIIIクイーンS 札幌 芝1800 1人気 C.ルメール 1:46.6 上り34.6映像
1 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 6人気 C.ルメール 1:33.9 上り33.4映像
2 GIIサンスポ杯阪神牝馬S 阪神 芝1600 3人気 C.ルメール 1:34.6 上り34.0映像
1 飛鳥S 京都 芝1800 2人気 武幸四郎 1:48.6 上り34.2
1 北大路特別 京都 芝1800 2人気 福永祐一 1:47.5 上り34.2
2 衣笠特別 京都 芝1800 2人気 藤岡康太 1:48.1 上り33.1
2 堀川特別 京都 芝1800 2人気 藤岡康太 1:46.2 上り32.9
7 GII関西TVローズS 阪神 芝1800 5人気 C.ルメール 1:47.9 上り34.7
15 GI優駿牝馬 東京 芝2400 9人気 岩田康誠 2:26.5 上り34.9映像
5 GI桜花賞 阪神 芝1600 13人気 藤岡康太 1:33.9 上り33.2映像
16 GIIIチューリップ賞 阪神 芝1600 11人気 菱田裕二 1:33.9 上り34.4映像
9 GI阪神ジュベナイルフィリーズ 阪神 芝1600 6人気 菱田裕二 1:35.5 上り35.8映像
1 白菊賞 京都 芝1600 5人気 菱田裕二 1:34.7 上り33.9
8 GIIIKBSファンタジーS 京都 芝1400 3人気 川田将雅 1:22.3 上り33.7
1 2歳新馬 中京 芝1600 3人気 川田将雅 1:39.9 上り34.0

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
アドマイヤリードの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ステイゴールドStay GoldサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ゴールデンサッシュディクタスDictus
ダイナサッシュ
ベルアリュールII Belle AllureNumerousMr. Prospector
Number
Mare Aux FeesKenmare
Feerie Boreale
STORY

旅程 — この馬の物語

2013年生まれの青鹿毛の牝馬。父ステイゴールド、母ベルアリュール。主な勝ち鞍はヴィクトリアマイル。

賞賛の名と、海を渡った母

2013年3月18日、北海道安平町のノーザンファーム。青鹿毛の牝馬が生まれた。父はステイゴールド、母はベルアリュールⅡ。 母は2005年生まれのアイルランド産で、走った舞台は日本ではない。2008年にフランスでヴァントー賞、翌2009年にはアメリカでアシーニアステークスを勝っている。どちらもGIII。フランスで8戦2勝、アメリカで7戦2勝。大西洋をまたいで重賞を二つ勝った牝馬が、繁殖牝馬として安平の土を踏んだ。母の父はNumerous、その父はMr. Prospector。母の母Mare Aux Feesはフランスで走った芦毛で、その父はKenmare。日本の牝系とは、少し匂いの違う血である。 父ステイゴールドは50戦して7勝。重賞を初めて勝つまでに28連敗を数え、2着と3着ばかりを積み上げて「稀代のシルバー&ブロンズコレクター」と呼ばれた馬だった。引退レースの香港ヴァーズでようやくGIを勝ち、種牡馬になってからオルフェーヴルゴールドシップを送り出している。2015年2月5日、ステイゴールドは世を去った。この娘がデビューする、五か月前のことである。 当歳でセレクトセールに上場され、4830万円の値がついた。与えられたのは、水色に白袖・青鋸歯形の勝負服と、アドマイヤの名だった。冠名を築いた近藤利一は、1999年の東京優駿をアドマイヤベガで、2007年の宝塚記念をアドマイヤムーンで勝っている。アドマイヤは英語で賞賛。それに続く一語はLead――先頭、そして導くこと。名のとおりに走るまでには、四年近くかかることになる。

三九八キロの新馬勝ち

2015年7月11日、中京の芝1600m、10頭立ての2歳新馬戦。馬体重398キロ、3番人気。鞍上は川田将雅で、預けられたのは栗東の須貝尚介厩舎だった。 中団から直線で外へ持ち出すと、先に抜け出した一頭に並びかけた。相手はディープインパクト産駒の牡馬、シルバーステート。デビュー前の調教でダービーを狙えると評された素質馬である。頭差で先にゴール板を通過したのは、398キロの牝馬のほうだった。シルバーステートはこの後、四連勝を重ねながら二度の屈腱炎に阻まれ、5戦4勝のまま競走生活を終えて種牡馬になる。彼が生涯で先着を許したのは、この一戦だけである。 11月7日のファンタジーステークスは3番人気で8着。初めての重賞は苦かった。だが月末の白菊賞では菱田裕二を背に、スタートで後手を踏みながら直線は内から抜け出し、1馬身1/4差をつけて2勝目を挙げる。勢いのまま向かった暮れの阪神ジュベナイルフィリーズは、18頭立ての1番枠から6番人気。後方を追走して伸びを欠き、9着に終わった。勝ったのはメジャーエンブレム。二歳の暮れ、彼女はまだ、桜の主役の輪の外にいた。

桜、二百四十八倍の五着

2016年3月5日、チューリップ賞。11番人気で16着、しんがりに終わった。勝ったのはシンハライト。この一戦のあとで、彼女を桜花賞の上位に置く声は多くなかった。 4月10日、阪神。単勝248.9倍の13番人気、18頭立ての8枠17番。上がり3ハロン33秒2の脚を使って5着に食い込む。勝ったジュエラーとの差は0秒5。前走でしんがりに沈んだ馬が、クラシックの一冠目で掲示板に載った。 続くオークスは9番人気で15着。府中の2400mでは1秒5離され、そのまま休養に入る。三歳の春に残ったのは、桜の日の五着だけだった。

京都・芝一八〇〇を四度

秋の始動戦、重馬場のローズステークスは5番人気で7着。この日はじめて手綱を取ったのが、クリストフ・ルメールだった。GIIで7着なら、次は自己条件に戻るしかない。彼女は京都の芝1800mへ降りていく。 10月15日、堀川特別。藤岡康太を背に上がり32秒9を計時しながら、エテルナミノルに0秒差の2着。11月20日、衣笠特別。同じ舞台、同じ鞍上で、また0秒差の2着。先着したのはジュールポレールという牝馬だった。二度続けて、あと一完歩が届かない。 年が明けて1月14日、北大路特別。福永祐一が乗り、逃げるエイシンティンクルを差し切ってようやく三勝目を挙げる。2月11日、飛鳥ステークス。重馬場の昇級初戦を、武幸四郎の手綱で0秒5差の完勝。武幸四郎はこの半月後、2月26日の騎乗を最後に約二十年の騎手生活を終えて調教師へ転じており、飛鳥ステークスは彼が騎手として挙げた最後の勝利になった。 4月8日、阪神牝馬ステークス。ルメールが戻ってきた。重馬場の1600mでミッキークイーンの2着、0秒3差。京都の1800mを四度使って積み上げたものが、重賞の舞台で形になりはじめていた。

馬群を割る ― 二〇一七年五月十四日

前日の大雨が残り、東京の芝は稍重。内ラチ沿いは傷んでいた。17頭立て、3枠5番の赤帽。単勝13.5倍の6番人気、馬体重422キロ。 ソルヴェイグが引っ張る前半800m47秒9のスローペースを、アドマイヤリードは中団の最内で我慢した。四角、荒れた内を空けて隊列は馬場の四分どころに密集する。先頭ではスマートレイアーがソルヴェイグに並びかけ、外からレッツゴードンキミッキークイーンが追い出しにかかったが反応が鈍い。内からクイーンズリングが抜け出そうとする。それ以上に動いたのが、彼女だった。ルメールは傷んだ内へ逃げず、スマートレイアーとソルヴェイグのあいだにできた狭い隙間へ馬を送り込んでいる。「前が狭くなるようなところもあったけど、パスしていけるような手応えがあったので、自信を持ってそこへ突っ込んでいきました」[^1]。 残り100mで先頭。大外からデンコウアンジュが猛然と伸びてきたが、1馬身1/4を保ったままゴール板を過ぎた。1分33秒9、上がり33秒4。3着には、衣笠特別で彼女の前を通ったジュールポレールが入っている。1番人気ミッキークイーンは7着だった。 これが重賞初制覇である。そのタイトルが、いきなりGIだった。重賞をひとつ勝つまでに28連敗を要した父の娘は、その最初の重賞をGIで手にした。ルメールにとっても須貝尚介にとっても、ヴィクトリアマイルを勝つのは初めて。そして馬主・近藤利一にとっては、2008年天皇賞・春のアドマイヤジュピタ以来、九年ぶりのJRA・GI制覇だった。京都の条件戦で0秒差の2着に泣いた秋から、半年しか経っていない。

出典:スポーツナビ「牝馬戦線に新星アドマイヤリード現る 独壇場ルメール600勝からとどめ1日9連対」2017年5月14日配信、https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201705140001-spnavi 、閲覧日:2026年7月26日。

女王になってから

7月30日、札幌のクイーンステークス。単勝2.4倍の1番人気に推されて6着。勝ったアエロリットから0秒9。GI馬に向けられる評価と、実際に走る条件との折り合いが、ここから難しくなっていく。 10月14日、府中牝馬ステークス。戸崎圭太を背に上がり32秒9で伸びたが、逃げ切ったクロコスミアを捉えられず3着。0秒2差だった。四歳の秋は、ここで終わる。 明けて2018年、東京新聞杯は12着、阪神牝馬ステークスは4着。そして5月13日、連覇を懸けたヴィクトリアマイル。2番人気に推され、稍重の馬場を中団のやや後ろから運んだが、伸び切れずに8着。勝ち時計は1分33秒0――前年に自分が刻んだ数字より0秒9速く、彼女はその0秒7後ろにいた。先頭でゴール板を通過したのは、ハナ差の写真判定を制したジュールポレールである。京都の条件戦で彼女の前を通り、前年のヴィクトリアマイルでは3着に泣いた、あの牝馬だった。

一年七か月 ― 中山のディセンバーステークス

2018年の秋は苦しかった。10月の府中牝馬ステークスは9番人気で7着、勝ったのはディアドラ。11月のエリザベス女王杯は11番人気で14着、勝ったのはリスグラシュー。五歳の秋に、GI馬という肩書きだけが残っているように見えた。 12月16日、中山の芝1800m、ディセンバーステークス。3番人気。手綱を取ったのは横山典弘だった。中団から進めて直線、早めに抜け出したプロディガルサンを半馬身だけ差し切る。ヴィクトリアマイル以来、一年七か月ぶりの勝利だった。「ノリちゃんが最高に乗ってくれた」[^1]。須貝尚介は、鞍上の仕事をそう讃えている。 牡馬も交じる一戦だった。女王になってから彼女が先頭でゴール板を通過したのは、この一度きりである。

出典:スポーツ報知「【ディセンバーS】G1馬アドマイヤリードが1年7か月ぶりV 須貝師「ノリちゃんが最高に乗ってくれた」」2018年12月16日配信、https://hochi.news/articles/20181216-OHT1T50106.html 、閲覧日:2026年7月26日。

六歳の冬

2019年1月5日、中山金杯。牡馬を相手にした2000mのハンデ戦に56キロで出走し、8番人気で4着。勝ったウインブライトとの差は0秒1だった。この馬もまた、父はステイゴールドである。 3月9日、中山牝馬ステークス。4番人気で10着。これが最後の一戦になった。3月13日、競走馬登録抹消。24戦6勝、獲得賞金2億4413万6000円。 六つの勝ち鞍の内訳は、新馬戦がひとつ、条件戦が三つ、オープンの一戦がひとつ、そしてGIがひとつ。二歳の夏に398キロだった馬体は、最後の年には430キロで走っていた。生まれ故郷の安平・ノーザンファームに戻り、繁殖牝馬としての時間が始まる。

水色を継ぐ

2019年11月17日、近藤利一が七十七歳で亡くなった。JRAの重賞60勝、うちGI級13勝。アドマイヤの冠名と、水色・白袖・青鋸歯形の勝負服は、妻の旬子が受け継いだ。娘がヴィクトリアマイルを勝って、二年半後のことである。 母ベルアリュールⅡは、その後も安平で仔を産み続けた。2021年生まれの半妹アドマイヤベルは、旬子の勝負服で2024年のフローラステークスを勝っている。フランスとアメリカでGIIIを勝った舶来の牝馬の血は、日本でも娘たちの脚で重賞のゴール板を先頭で通過している。 アドマイヤリード自身の仔は、初仔キュムラス(父ロードカナロア)から始まり、キャプテンシー(父モーリス)、ジュンライトニング(父エピファネイア)、セシルブリュネ(父サートゥルナーリア)と続く。まだ母を超える一頭は出ていない。血の話は、いつも気の長い話である。 桜花賞で248.9倍の低評価を覆した日、鞍上にいたのは藤岡康太だった。彼はこの馬に五度騎乗し、京都の1800mでは二度続けて0秒差の2着に泣いている。2024年4月10日、落馬事故により三十五歳で亡くなった。 先頭に立つ、という名を与えられた牝馬が、実際に先頭でゴール板を通過したのは二十四戦のうち六度だった。そのうちの一度が、稍重の府中で、十七頭のいちばん狭いところを割って抜けた一瞬である。空けて待っていてくれる隙間などない場所へ、自分から入っていって、出てきた。安平の放牧地で仔を連れて歩く青鹿毛を見るとき、思い出すのはその一瞬でいい。

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